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中国史に学ぶ(2) 司馬仲達、戦わぬ名将

指導者たる者かくあるべし

 呉の武将・周瑜(しゅうゆ)は、宿敵・曹 操の弱点を冷静に分析して勝算を立て、数倍の敵を赤壁に破ったが、あえて戦いを挑まず、“待ち”に徹して天下を取った男がいる。三国時代を終わらせ統一中国の覇者となった晋の宣帝・司馬懿(しばい=仲達)である。

 蜀の名臣・諸葛亮(孔明)は、先帝・劉備亡き後、魏を相手に五度目の北征の軍を起こし五丈原に陣取った。西暦234年2月のこと。

 魏の二代目の曹叡(そうえい=明帝)は、司馬仲達(ちゅうたつ)に出陣を命じた。仲達は、山の細道を越えて遠征してきた蜀軍の弱点が、食料補給にあると見抜いていた。そこで、正面戦を避け持久戦を取る。

 にらみ合いは百余日に及ぶ。春は過ぎ夏が来たが仲達は動かない。しびれを切らした孔明は、陣中の仲達に婦人用の装飾品を贈る。「女々しい腰抜けめ」の含意である。プライドを焚きつける挑発にも仲達は乗らない。

 さらに孔明が送り込んだ決戦を迫る使者に仲達は悠然と問いかけた。「孔明どのはいかがお過ごしか」。使者が答える。「朝早く起きて夜遅くまで、軍務の決済にお忙しい。食事もあまり召し上がらぬ」

 それを聞いて仲達は側近に語る。「孔明もあと長くはないな」

 決定機まで戦いを避ける。敵が背を向ければ風のように火のように急襲してこれを殲滅する。仲達の流儀である。

 こんなエピソードがある。遡ること三年、孔明の四度目の北征のときのこと。魏の西部戦線の将軍の急病で、急遽代打ちの防衛司令官となった仲達は、「戦わず待て」と命じた。陣内で過去三度の孔明の戦いぶりの分析に日を過ごすばかり。血気にはやる部下たちの間に、「新任司令官は腰抜けだ」と、不穏な空気が流れる。「それなら」と仲達は腰を上げる。部下の将兵たちの奮戦空しく孔明の返り討ちにあって惨敗した。

 「戦いとは機が熟さねば勝てないものだ。待てといった意味がようやく分かったか」。その後、仲達の采配に忠実に従ったという。

 さて、五丈原。秋風が吹くころ、仲達の予言通り孔明は陣中に没した。死を秘匿して粛々と軍を引く蜀。仲達は後を追ったが深追いは避け、軍を回頭する。

 仲達が蜀殲滅の絶好の機会を逃したと見た人々は「死せる孔明、生ける仲達を走らす」と揶揄した。

 「なあに、孔明のいない蜀などもはや敵ではないわ」。孔明死去の情報を得ていた仲達の頭の中は、早くも魏の実権の掌握と天下統一の構想で動いていたのである。  (次回に続く)

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

参考文献
『三国志1-5(原文)』陳寿著 裴松之注 中華書局
『「三国志」の覇者 司馬仲達』松本一男著 PHP文庫
『三国志 きらめく群像』高島俊男著 ちくま文庫 
『十八史略』竹内弘行著 講談社学術文庫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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