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ナンバー2の心得(13)

指導者たる者かくあるべし

「数は力」を引き継いだ竹下登のシナリオ
 
 本音を隠した静かなるクーデター
 
 ロッキード事件で逮捕されて表立った政治活動のできない元首相・田中角栄が裏で中曽根康弘政権を指揮する〝角影政治〟の不正常な姿からの脱却への想いは、角栄子飼いの竹下登にも強かった。
 
 しかし、その天下取りのシナリオは、田中派の大番頭の二階堂進が、党内非主流派と野党を巻き込み本人に直言して決断を促すやり方とは手法を異にした。
 
 あくまで田中派内で多数派工作を行い、派閥の実権を掌握する、静かなるクーデターを目指した。
 
 
 
 目白御殿に乗り込み派中派の了承を得る
 
 とはいえ、竹下の胸中には、いずれ竹下派に看板を付け替えて、総理を目指すという強固な意志があった。
 
 田中派重鎮の金丸信の指導のもと、のちに竹下派七奉行と呼ばれることになる、田中派若手の小渕恵三、小沢一郎、橋本龍太郎、梶山静六、羽田孜らと綿密に打ち合わせを繰り返し、勉強会の名目で「創政会」の立ち上げに動く。
 
 角栄排除の狙いは隠したまま、1986年(昭和61年)2月に派中派を結成する。竹下は東京目白の田中邸に乗り込んで報告し、「勉強会ならいいだろう。しっかり政策を勉強しろよ」とお墨付きを得ている。
 
 田中角栄にしてみれば、前年秋に浮上した二階堂擁立構想を、竹下押し上げに動く金丸信が潰した経緯から、派中派の動きの危険よりも、二階堂牽制に使えると考えたかもしれない。そして田中の酒量はこのころから増え、ストレスを抱えた田中は、脳梗塞で倒れる。
 
 
 
 お墨付きによる多数派工作
 
 角栄によって政治家への道を開かれた田中派の若手議員にとって、創政会への参加は、「世話になったオヤジに弓を引く」行為になる可能性もある。ためらいが出る。結果的には角栄の病状が予想以上に重いことがわかるにつれ、創政会への参加者は続々と増える。
 
 創政会立ち上げ後に田中が倒れたのは、偶然だとしても、堂々と目白邸に乗り込み事前に田中の了承を得ていたことが、竹下のその後を決めた。のらりくらりと捉えどころのないイメージの竹下だが、政治家としての勝負のツボは心得ていた。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」である。
 
 「政治は数、数は力」は、田中角栄の政治信条であった。特にロッキード事件で有罪判決を受けて以降、政治復権のために、その思いは、より強くなっていた。
 
 その信条を竹下は引き継ぎ、派閥内の実権を不動のものとし、自民党内でのニューリーダーの立場を固めていくことになる。
 
 (この項、次回に続く)
 
(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
 
 
 
※参考文献
 
『自民党-政権党の38年』北岡伸一著 中公文庫
『政治とは何か 竹下登回顧録』竹下登著 講談社
『鹿児島人物叢書4 二階堂進』上城恒夫 高城書房

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