生鮮食品を仕入れて加工製品の製造、卸売業を営む小田社長が、賛多弁護士のところへ法律相談に訪れました。
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小田社長:今回は、弊社の取引先の百貨店の新たな取り組みについて法律相談に来ました。
賛多弁護士:いかがされましたか。
小田社長:実は、弊社の取引先のX百貨店では試食販売イベントをしばしばやっており、このイベントは弊社のような各納入業者の派遣する従業員が自社納入商品についてのみ試食販売を行っているものです。
賛多弁護士:たしかにデパートの食品売り場や催事場でしばしば見かけますね。
小田社長:ええ。今回のX百貨店の新たな取り組みというのは、このような試食イベントを外部のイベント企画運営会社に一括して業務委託しようとするものです。これにより、例えば納入業者A社のワインの試飲販売と納入業者B社のチーズの試食販売を同時に開催するなど、複数の納入業者の試食イベントを同時に開催することが可能となります。
賛多弁護士:なるほど、たしかに上手く企画すれば各商品の相乗効果による売り上げ増加効果が見込まれるかもしれませんね。
小田社長:その通りです。しかし、問題はこの新企画の費用負担についてなのです。
賛多弁護士: と言いますと?
小田社長:つまり、イベントに参加する納入業者は、1日あたり一定額を協賛金としてX百貨店に支払わなければなりません。X百貨店はこの協賛金の一部を事務経費として差し引いた上、残りをイベント企画運営会社に委託費として支払うようです。弊社としてはこの協賛金が重い負担となることを懸念しております。協賛金が多額になるようであれば正直言って有難迷惑です。
賛多弁護士:一般に、X百貨店のような大規模小売業者が、自己のために、納入業者に当該納入業者が本来提供する必要のない金銭を提供させること、又は、納入業者が得る利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えて金銭を提供させることは、独占禁止法上問題となりえます。
小田社長:独占禁止法ですか、今回のような事でも、その範疇なんですか?
賛多弁護士:はい。特に今回のX百貨店の取り組みについては、次のように指摘できます。まず、複数の納入業者が関わる試食イベントについて、各納入業者が負担すべき協賛金は本来であれば納入業者やイベントごとに算出方法が異なるはずです。にもかかわらず、1日当たり一定額の協賛金を一律に負担させることは、十把一絡げに合算したうえ按分しているものと考えられ、算出根拠が不明確と言わざるを得ません。また、納入業者が支払うべきものとして事前に決められた1日当たり一定額の協賛金が、個々の納入業者の売上増加による利益の範囲を超えて過大になるおそれがあります。そうすると、優越的地位の濫用として独占禁止法2条9項5号ロや大規模小売業者告示第8項に抵触する可能性が高いといえます。
小田社長:そうなんですね、ありがとうございます。場合によっては、この件に関してX百貨店との交渉を賛多弁護士にお願いできますでしょうか。
賛多弁護士:もちろんです。いつでもお気軽にご相談下さい。
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スーパーマーケットや百貨店といった大規模小売店と納入業者の関係やフランチャイザーとフランチャイジーの関係などにおいては、しばしば優越的地位の濫用が問題となる場面があります。例えば、前者に関しては今回のような協賛金の負担要請の他に従業員派遣要請や商品の返品・減額等が、後者に関しては仕入数量の強制や見切り販売の制限等が問題となります。
なお、優越的地位の濫用の規定(独占禁止法2条9項5号ロ)に違反する場合、公正取引委員会は、排除措置命令や課徴金納付命令を発することとなります。規定違反の効果について、より詳しくは第54回のコラムを参照ください。
※参照資料
「独占禁止法に関する相談事例集(平成19年度)」事例13
https://www.jftc.go.jp/dk/soudanjirei/h20/h19nendomokuji/h19nendo13.html
優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方
https://www.jftc.go.jp/hourei_files/yuuetsutekichii.pdf
大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な方法(平成十七年五月十三日公正取引委員会告示第十一号)
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/tokuteinounyu.html
「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な方法」の運用基準
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/daikibokouri.html
フランチャイズ・システムに関する独占禁止法の考え方
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/franchise.html
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 桑原 敦