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人間学・古典

第92講 「帝王学その42」
もともと知る無きにしかず。 これを問わずとも何ぞ損ぜん。

先人の名句名言の教え 東洋思想に学ぶ経営学


【意味】
(悪口を言った者の名前を)わざわざ知る必要も無い。知ったからといって何の得があろうか。



【解説】
 「宋名臣言行録」の言葉になります。
 後に宰相に取り上げられた呂蒙正(リョモウセイ)が参知政事であった頃、簾(スダレ)の向こうから自分の悪口が聞こえてきました。同席者が悪口を言った者の官位姓名を確かめようと腰を上げた時に、呂蒙正はこの掲句の言葉を発しただけで泰然自若としていました。
 それにしても「一言、その器量を現わす」(巌海)とありますが、この一言や態度で彼の品性器量が伺えます。

 筆者はボランティア活動「100万人の心の緑化作戦」を推進し、その一環で"人生如何に生きるか?"をテーマにした「人間学読書会」を主宰しています。その300回記念として次のような「日常生活の四源句」を作成しました。
  『置・自懐天懐 ・・・(自分の懐(心)を天地自然の懐に置き大きくします)
   視・仁眼長所 ・・・(嫌眼でなく仁眼(仁愛の眼)で周りの長所を視ます)
   転・感謝満足 ・・・(仁眼長所で生まれる感謝の心を満足の心に転じます)
   産・報恩活力』・・・(感謝満足心から社会貢献の報恩活力を産み出します)

 この四源句の中核は「仁眼長所」(*この反対語は「嫌眼短所」)です。仁眼長所が癖になり周りの長所が視えますと、感謝の回数が飛躍的に増加します。そうすると"自分は何て幸せな者"なのかという満足回数も増え、"世間に恩返しをしたいという報恩活力"が芽生えてきます。
 しばしば朗らかな顔で喜んで働く人を見かけますが、このような人を「朗顔喜働の人」と云います。これは自然感情ですから、本人は大した努力をしているわけではありません。何らかのきっかけで仁眼長所を身に付け、その後本人も気持ちがよいから続けているだけです。
 「100万人の心の緑化作戦」は、このレベルの"核になる人物100万人"を育成し、お互いが朗顔人生を送れる世の中にしようという作戦です。呂蒙正などはこの核になってくれるレベルの人物であったろうと思います。

 現代の地球は70億人超の人口がひしめき合い、国家も国民もむやみに権利を主張する時代になってきました。最近の日本を取り巻く近隣諸国との関係では、批判外交が主となって自国の要求が受け入れられない限り永遠に中傷が続く風潮があります。また国内でも各報道機関が先を争い批判報道に走り、一旦標的になればダウン寸前に至るまで批判に晒されます。
 残念なことですが、何か社会全体が包容力を失い「嫌眼短所からの悪口習慣」に突き進んでいる感があります。「悪口を聞くも話すも蜜より甘し」(俗諺)とありますが、国民の節操欠如がこの悪口習慣を助長している処があります。
 この「嫌眼短所からの悪口習慣」を断固阻止するのが、先に掲げた「仁眼長所からの感謝習慣」となります。この仁眼による感謝習慣が身に付きますと、まず笑顔になり、歩き方が元気になり、周りへの協調行動力も生まれます。そして何より嬉しいことは毎日が楽しく過ごせるようになることです。

 

杉山巌海

第91講 「帝王学その41」 人を用うるには、只堪否を問う。 あに新古をもって情を異にせんや。前のページ

第93講 「帝王学その43」 士は天下の憂いに先立ちて憂え、天下の楽しみに後れて楽しむべし。次のページ

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