【3】「汗かき提案」が心をやわらかくさせる。おっせかい対応で感動づくり。
お申し出者が遭遇した事実、それに関わる事情、本当の不満、望んでいる対応などの
お話を聞いている頭の隅っこでは、そろそろ、対応担当者側としても“それなら、
こうさせていただこう”と提案するべきことを具体的に固め始めていくわけですが、
第19講で触れたように、「価値不満」については、ひとまずは調査、検査、交換、
返金、無償修理などのカードから選ぶしかないのです。
ただ、それで「わかりました。よろしく」なんて言ってもらえることはほとんど不可能です。
それはお申し出者は「付加価値不満」をも抱えていることがほとんどだから、
当然「付加価値不満」についての対応の提案もしなければ『納得』が得られる論理には
ならないということは、これまでで十分に理解できたことと思いますが、それでは、
「付加価値不満」を「納得」に変える対応ってなんだろうということになりますよね。
そんな相手の気持ちを揺さぶるほど衝撃的な提案なんてあるはずがないと思うかもしれません。
あったところで、会社が「それは、やりすぎだろ!」なんて許してくれないという事情もあります。
どちらというと私はこのジレンマに苦しみましたね~。
“これをやって差し上げればイッキに解決。それどころか、感謝の一言さえいただけるのに~”とか、
“なんだかんだって言うたって、実際にはその作業は私がするんやから、ガタガタ言わんといて~”とか、
“これがやりすぎやっていうなら、納得を得るための代案出しいや。代案もないくせにうるさいねん!”
という暴言をはいたり、相手を見てたまにはグッとこらえたり。
だって、お申し出者が納得してくれるのが目に見えてるのに、そこまでやると相手が増長して
要望が高まることの危惧や、前例がないとか、今回実施すれば恒常的になるとか、恒常的に
なれば経費がかさむとか、人員の労力が取られるとか、“いったい誰見て、対応してんねん!!”
と心の中で叫んだこともしばしばありました。
でも、そんな社内での軋轢をかいくぐって、特にめだった新たな負担もかけることなく、
ただお申し出者の反応だけが好ましいものになっていく現実に、徐々に私がお申し出者
にして差し上げたいことが私の判断でできるようになってきたのです。
私がお申し出者の「付加価値不満」を「納得」に変えるために提案し、
して差し上げたことはいろいろありました。
1)訪問対応については何曜日でも、何時でも、どこへでも、
天候が悪くても、暑くても、寒くてもご指定を受け入れる
2)ご本人だけでなくご家族にもご迷惑をおかけしたのであれば、
ご家族全員がお集まりの時間、場所に出向く
3)ご本人だけでなくご友人にもご迷惑をおかけし
たのであれば、ご友人宅にもお詫びに行く
4) 2)と3)の状況下で、来られても困りますというようなら、ご家族やご友人にお手紙を書く
5)手土産品は、自社商品にこだわらず、お申し出者が興味深い品物を聞きだし探し出し、お持ちする
6)身体問題の場合は、病院にお連れする
7)身体問題の場合は、2~3日はお昼頃と、夜、体調をうかがうために電話をする
8)交換品で再度、同じ誤使用や保存方法の誤りがないように、
保管指導、使い方指導を、ご自宅におじゃまして行う。
または、消費者にとってわかりやく使いやすいマニュアルのようなものを手作りしてお送りする
9)その2~3日後、その後の使用感や、お味についておうかがいする電話をかける
問題はこれらのことが、お申し出者から要望されて行うのではなく、対応担当者のほうから、
「○○をさせていただきましょうか?」と言うことがもっとも大切なことです。
逆にお申し出者から1)~9)のような要望や、条件を出された場合は、
そう簡単に修復できる不満ではないというバロメーター。
そしてもうひとつ、クレーマーかもしれないというバロメーターにもなります。
相手がクレーマーなら、1)~9)までを実直に行う必要はありません。
「それは、ちょっと・・・・」なんて態度を変えてください。
いずれにしても、1)~9)をすべて自分から提案してくださいということではありません。
私は1)~9)のようなことを恐る恐る提案し、おじゃましてみたら想像よりも難易度が低いところで
「納得」を得た確率が高かったということをお話ししたいのです。
ひょっとしたら、あなたの会社では、もっと提案できることがあるかもしれません。
自社や他社や、業界団体のホームページから、説得できる資料を引き出し理解を
高めることもできるかもしれませんし、その問題に関わる詳しいことを消費者に
教えてくださる場所をご紹介したり、このお申し出がきっかけで
「○○の正しい使い方講座」を開催することにしたりということも考えられます。
でも、あなたからお申し出者に提案するときに大切なのは、あなたの手間が少しかかっていること。
“対応担当者がひと汗かいているなあ。かくんだなあ”と思える提案でないと、なんの幸運も呼びません。
むしろ、手抜きのような印象を与える提案だと意味はありませんので、そこのところはくれぐれもお忘れなく。
そしてもうひとつ。お申し出者の口から「○○○ということはしてくれないの?」と出る前に差し出すこと。
要望されてからでは、同じことをやっても「納得」させるだけの威力は持ち得ないのです。
そのためには、あなたは「おせっかいな担当者」になることです。
“ゲゲッ~!おせっかいなんて自分がされると嫌だから、きっと相手も嫌がるとおもうよ~”なんて言うてるんでしょう?
自分がおっせっかいされると嫌だからというよりもおせっかいするのが嫌だから、そう言い訳してる。
だいたいの人はそうです。おせっかいをするのが嫌なのは、第一には、人のためになにかするのが
面倒くさい。第二には、「よけいなことよ!!」って言われたら面倒くささを押し殺して提供したにも
甲斐がない、というのが本音でしょう。すべては自分が傷つかないように守りたいからよね。
ところが、守っているつもりなのに、実際は毎日傷ついてる。
どっちみち傷つくなら、やり尽して傷つくっていう手もありますよ。
私はその手で、予想外にも、
「ごめんね。無理言うたねえ。私はずかしいわあ」
「冷静に考えたら、私、なんて勝手なこと言うたんやろうって」
「言い過ぎたわ。あのとき興奮してしもて。許してね」
なんて「感動的な納得」を数多く体験できることになったのです。
私のクレーム対応のモットーは、「すべてはダメもと。当たって砕け散ったときに第3の引き出しが開く」です。
中村友妃子
【出所・参考文献】
『クレーム対応のプロが教える“最善の話し方”』(青春出版社刊)