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第22講 『理解』と『納得』のクロージングに失敗しないために~その4~

クレーム対応 実践マニュアル

【4】「心に響くクロージング」で最後のひと仕事。自分の達成感もググッと高まります


さて、あなたのクレーム対応担当者として、申し出者に差し出したものに、
お申し出者のへこんでいた第一感情が徐々に溶けるとともに豊かな感情に変化を見せ、
当然、第二感情の“怒り”も鳴りをひそめ、決して明るい声ではないけれど、あきらかにしぶしぶではあるけれど、

「わかりました。それでいいです。今度から気をつけてね」
と、言っていただけた瞬間は、わたしたちにとっては至福の瞬間と言えます。


重い荷物を肩に背負い、目指して歩いてきた目的地に到着した瞬間のような、
解決のめどがつかない悩みに曇っていた心のもやが晴れてゆくような、
すべての力で踏ん張って持ち上げていた荷物を「降ろしてもいいよ」と言ってもらった瞬間のような、
それらすべてがイッキに訪れたようなたとえようのない瞬間。
そう思えるのは、それまでの道のりが一筋縄ではいかなかったからこそ。


「そんな地名の場所があったのか!」と戸惑うほどの山間部のお客様宅にお伺いすることもたびたびありました。
特に問題が重篤というわけでも、お怒りが激しいということがなくてもクレーム対応はまずは3現主義の徹底ですから、
現品をいただきに行くということが再々あったのです。
現在のように、インターネットで場所が検索できたり、車にナビが完備されているのが当たり前の時代
ではなかった頃は、行ったことも聞いたこともない場所に行くのは、時間的にも精神的にも大変でした。
そのような地域ですから、到着までの確かな時間が読めないので、時間のつぶしようもなく早く到着してしまったり、
十分だろうと思って交通にあてていた時間がギリギリになったりと、到着するまでがハラハラものでした。

お電話での様子では、お客様はそれほどお怒りではないとはいえ、
お会いしたら予想外に心の奥深くにメラメラとした憤りをお持ちだったり、
会社にいただいたお電話では優しそうな奥様だったけれどお家に行ってみると、
体格のいいご主人に仁王立ちで迎えられるかもしれない。

現品をいただくことを目的にしておじゃまするつもりなのに、相手のお話が非常に
長かったらどうしよう。最悪なのは、次にもう一件、おじゃましなければならない
お客様と約束でもしていた日には、どうやってクロージングをするべきか。

それに現品をいただいて、検査の結果が重篤な問題に派生しそうなことだったら、
ここにまた来なければならない。あまりにも遠方のため時間がかかりすぎて
「ちょっと、じゃまくさい虫」が脳みそのすきまを這う。頭の中で払いのける。それでも這う。払う・・・・・・の繰り返し。
そして、確かに近くまで来ているはずなのに、目指すお家を見つけるのに少し迷う。
これはいつものこと。刻々と迫る時間に焦りながらも、冬の山間部は寒さがつきささる。


そんなたくさんの不安を抱えて、やっと、お客様にお会いした瞬間、お電話の声のとおり小柄で優しい奥様、
商品の問題部分をちらりと見たところそれほど重篤な問題となる不具合ではなさそう。
しかも奥様は、
「今度から気をつけてくれたらいいですから。言っといた方がいいと思って。説明もお詫びもいりません」
「こんな田舎まで。ご苦労さまでした。気をつけて帰ってくださいよ」
なんていいながら玄関まで見送ってくださる。私はお辞儀をしながら門扉をしめて体をひるがえす。
このひるがえった瞬間に至福が訪れた感覚を味わったことが何度もあります。

“はあ~、こんなことでもなけりゃ、一生、こんなとこに来ることなかったなあ”
なんて山並みを眺め、両手を広げて深呼吸をし、もっと言えば、“よう、呼んでくれたよなあ~。ん、ん。
呼ばれなかったら、こんなええとこ一生知らんかってんなあ。私”なんて、あまりの自分の
豊かな気持ちに自分で感激し、涙をうるませて帰ったことが何度もあります。

バカみたいな話ですが、それほど、いろんな不安と戦っていた。
そして、その不安は幻だったことの安堵感がそうさせたんでしょう。
でも、そもそも、不安と闘うひと時がなかったならこの感激は味わえなかったのです。
その頃から私は、クレーム対応という仕事は、“小さな不安で、大きな感激を
得られることもあるという、タナボタみたいな仕事やなあ”
と思えるようになり、
どんどん、どんどん好きになっていきました。  

でもお申し出者が「もう、いいよ。これからちゃんとしてくれたら」と言ってくださったら、
あまりの至福にホ~っとしてしまうのが正直なところですが、対応担当者には
もうひと仕事やらなければならないことがあります。
「もう、いいよ。これからこんなことがないようにしてよ」と言ってくださったからと言って
「ありがとうございます。それでは失礼します」なんてあいさつをいきなりしてしまうようではいけません。

お申し出者だって、勇気をもってあなたの会社に連絡をしてきたのです。
どこかの時点でだまされ、結果、自分は損をするのではないかと不安と
戦いながらあなたと接してきたのです。

そして、あなたの誠意のある対応に対し、企業の立場に歩み寄って理解をしようと、
自分で自分に気持ちの決断をしてくださったのですから、対応担当者もその気持ちに
ぜひ応えることが必要です。

応えるというか、お申し出者のそれらのあたたかい思いを理解しているということや、
そのお申し出者の歩み寄りに感謝する思いなどを、率直に伝えるのが、あなたの最後のひと仕事です。
緊張もゆるむ瞬間ではありますが、やるべきことはきちんとやる。
だって、心に残るクロージングをすることは、クレーム対応担当者の最後の仕事なのですから。

 

心に残るクロージングのしかた(例)
お申し出者 「わかった。それでいいわ!」
担当者 「ご理解いただいてありがとうございます」


お申し出者 「・・・・・・」
担当者 *あえて一呼吸おく
     「一層、ご満足いただける商品づくりに努力していかなければならないと思いました。
     本当に勉強になりました。ありがとうございました」
(この会話が心に残るクロージング部分)


お申し出者 「よろしくたのむよ」
担当者 *あえて一呼吸おく
     「はい、本当にありがとうございます。失礼いたします」

                                       中村友妃子          


【出所・参考文献】
『クレーム対応のプロが教える“最善の話し方”』(青春出版社刊)

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