です。
日本を代表する現役の哲学者であり、
他に類を見ない異色の経歴でも知られる木田元さんが
ご自身の半生と、その時々に読んできた本を紹介する
まさに一石二鳥の書。
日本経済新聞の「私の履歴書」が好きな方には
たまらないですね。
少年時代を満州、新京で過ごし、
戦中には海軍兵学校を経て、終戦を経験。
戦後の混乱期はテキ屋、闇屋として働き、
それから現在の高校にあたる農林専門学校に入学、という
まさに波乱万丈の少年期!
なんとも想像を絶する世界ですが、
木田さんの軽妙な筆致で、当時にタイムスリップしたような
気すらしてきます。
木田さんの人生において、読書は中心を成すもので、
とりわけ、農林専門学校入学以降は、質量ともに加速していきます。
本書冒頭に出てくる、こんな一節にも
読書への並々ならぬ思いが垣間見えます。
「インターネットなどによる情報収集と読書とはまるで性格の違うことなのである。
私たちは偉大な作家や思想家の書いた一冊の本を読み通すことによって、
深く感じることを学び、深く考えることを学ぶのであって、
情報を収集しているだけではないのだ。」
また、木田さんは語学にも精通していて、
大学一年でドイツ語、二年でギリシア語、三年でラテン語、
大学院一年ではフランス語をマスター。
語学習得のコツも具体的に書かれていますので、
大いに参考になると思います。
もちろん、読んできた本についてもボリュームたっぷり!
ハイデガー、キルケゴール、メルロ=ポンティなど、
ご自身の専門分野である哲学書はもちろん、
フォークナーの「アブサロム・アブサロム」、
バルザックの「暗黒事件」、安部公房の「榎本武揚」、
アーロン・エルキンズ「偽りの名画」、陳舜臣「枯草の根」など
感銘を受けた本が続々出てきます。
特に、ドストエフスキーとキルケゴールを関連づけて読む方法は
木田さんならではで、知的好奇心をくすぐられます。
最後に、ビジネスマンに、この一節を。
「詩なんか読んで、いったいなにになるんだとおっしゃる方が多いと思う。
たしかに、なんにもなりはしない。しかし、こういうことは言えるのではなかろうか。
私たちは、日頃ひどく振幅の狭い感情生活を送っているものである。
喜びであれ悲しみであれ、よくよく浅いところでしか感じていないのだ。
ところが、われわれは詩歌を読み、味わい、感動することによって、
喜びや悲しみをもっと深く感じることができるようになる。
ものごとを深く感じるためには、それなりの訓練が必要なのである。
小説を読むとか音楽を聴くとか、人それぞれにその訓練の仕方は違うであろうが、
私にとっては詩歌を読むということが、
そのための最良の訓練になったような気がする。」
この感覚は、ビジネスにも通じるところですね。
人生において、本当に大事なところは何か?
現在85歳の大先輩が、貴重な教えを授けてくれる一冊です。
尚、本書を楽しむ際におすすめの音楽は、
「鳥の歌-ホワイトハウス・コンサート」