メガバンクの改革に向けての動きが活発だ。
低金利政策が続き利鞘では稼げなくなった事に加えて、グローバル化、デジタル化の進展など経営環境は大きく変化しており、ビジネスモデルの変革を迫られている。
このようなメガバンクの動きの中で、企業経営にも影響の及ぶ最新動向を見ていきたい。
今回は、店舗の改革について。
メガバンク3行の店舗戦略(各社IR資料等から抜粋)
○ 三菱UFJ
2023年度までに店舗数を2017年比で約4割、200店舗を減して300程度とする。
そして、あらゆる取引が出来る従来型のフルサービス店舗は170程度。残りは個人コンサルティングなどの機能特化型店舗とする。
○ 三井住友
2022年度までに店舗数は400程度とする。
フルサービス店舗は100程度。残り300は個人コンサルティングに特化した軽量店舗とする。
○ みずほ
2024年度までに130店を減らして370程度とする。
フルサービス店舗は削減し、個人コンサルティングに特化した軽量店舗を拡大する。
これを見ると、各メガによって多少の強弱はあるものの、方向性は共通しているのが分かる。
・店舗の数を減らす。
・法人取引も行うフルサービスの店舗は、更に絞り込む。
・多くの店舗は個人コンサルティングに特化した機能特化型軽量店舗とする。
この3つが共通した動きである。
では、この動きの狙いはどこにあるのか?
先ず第一には、コスト削減である。
店舗を構えて預金を集め、近隣企業に融資して利鞘で稼ぐというビジネスモデルは、低金利が続く中では非常に厳しい。店舗に掛かる物件費と人件費を薄い利鞘では賄いきれないのである。
そこで近隣エリアの店舗をまとめて集約して店舗の数を減らしている。
店舗の立地を駅前の一等地から少し離れたビルの上層階へ移転するケースも見られるが、賃料コストの節減を図っている。
下図は、三井住友FGの2019年度決算における事業部門別実績であるが、国内リテール部門は経費率が高く、儲けを表す業務純益を比較すると、ホールセール(大企業取引)、グローバル(海外取引)、市場(債券取引など)に劣後している事が分かる。売上(業務粗利益)は大きくとも経費率が高く、利益貢献度としては下位となっている。
ROEや自己資本比率を高める効率的な経営が求められる中で、リテール部門の経費率引下げは大きな課題であり、抜本的な店舗改革が必要なのである。
※三井住友フィナンシャルグループ決算説明資料より
第二には、専門性を高める事である。
企業取引も個人取引も顧客ニーズが高度化している。
融資を主とした資金繰りニーズに応えるだけなら顧客に近い立地にきめ細かく店舗を配置してニーズを掬い取れば良かった。
しかし、今どき求められるのは、M&Aや海外進出支援、事業再編、デジタル化推進など事業発展に直結するような情報提供やコンサルティング機能などである。
このような高度化したニーズに応える為には、組織としての知見を高めると共に、人材育成が必要となる。
分散していた店舗を集積して人材も集めて切磋琢磨させて専門性を高める。
広く浅くから的を絞って深く掘り下げる方向への転換である。
そして最後は、デジタル化の進化だ。
メガバンクの店舗への来店客数はここ10年で4割ほど減っている。背景には、インターネットバンキングの利用が進んでいる事やATMの普及もあるが、デジタル化の進化は店舗での事務処理を減らしている。
以前は、振込や入金処理、或いは外国為替や融資実行などの事務処理は支店で行っていたが、システムの進化によってセンター処理や自動化が進み、支店で事務処理する必要をなくしている。
このようにデジタル化を進める事によって支店から事務を取り去り、コンサルティングなど営業活動に特化する拠点に変えようとしているのである。
事務に要していたスペースや人員を減らして、営業力を如何に上げるかを各メガは競っている。
企業への影響
メガバンクにとってリテール部門の位置付けが相対的に低下している中で、店舗改革は多少の痛みを伴なったとしてもやらなければならない必然だろう。
具体的に言えば、多少の顧客離れが起こっても仕方ないと考えているのだ。むしろ収益性の低い取引は整理したいとの思いかもしれない。
ある程度の企業規模を有するか、成長性が高い、或いは海外取引などメガバンクにとって旨味の期待できる企業に、サービス対象を絞り込んで行くと考えられる。
このような変化によって、中には取引が疎遠になってしまった企業もあれば、サービス向上を感じている経営者もいるだろう。一方で、地域にメガが無くてもニーズが合えばサービスを受ける事は、デジタル化の進化が容易にしている。
メガバンクの変化に振り回されるのではなく、企業の実状に応じて上手に活用する事が大事である。