第三次安倍内閣の下で通常国会が始まり、平成27年度予算と関連法案が審議されている。
法人減税の陰に隠れて余り話題に上らないが、今年度の税制改正に「NISAの非課税枠拡大と子ども版NISAの新設」、「専業主婦等の個人型確定拠出年金への加入措置」が盛り込まれた。
資産運用所得の非課税枠拡大や年金拠出金の所得控除という減税措置と引き換えに、私たちは生活設計や老後設計に関して、自助努力と自己責任を迫られているといえる。昨年行われた公的年金の財政検証では、将来の公的年金の支給水準が現役世帯の収入に対して占める割合(『所得代替率』という)を50%とする政府の公約達成が、事実上困難になったとわかる報告がなされた。2050年頃の厚生年金の支給水準は、アベノミクスが成功して高成長が実現した最も楽観的なケースで、所得代替率は50%を超える。しかし、経済成長が低迷するケースでは、所得代替率は40%を割り込むと試算されている。
先ずは政府が、年金を含む社会保障制度改革を迅速に推進すべきであるが、国民も過去に描いた老後設計を大きく見直さねばなるまい。政府は改革を断行して『所得代替率50%』公約を実現する義務がある。しかし、過去に決定された成長戦略がことごとく失敗した経緯から判断すれば、政府の楽観的過ぎる見通しに個人の老後設計を託すことは、将来に禍根を残すことになり兼ねない。公的年金の所得代替率を40%未満と厳しく見て、不足分を自助努力の資産運用で補う堅実なマネープランが重要になってきた。
個人型確定拠出年金への専業主婦・第三号被保険者等の加入を認める措置も、上記のような背景があり、「今後の社会保障制度では国民の老後を支え切れず、自助努力で準備する自分年金が重要な備えになる」ことを示唆している。昨年開始したNISA(少額投資非課税制度)は、開設された約800万口座のうち実際の稼働率は45%程度と推計される。それでも年間100万円の投資上限を平成28年分から120万円に拡大し、新たにジュニアNISAとして20歳未満の子ども一人当たり年間80万円の非課税枠(平成28年分から)を創設したことも、同じような意図を持った国民の財産形成促進策と考えられる。
今後、社会保障水準の切下げが不可避の経済財政事情の下で、生活設計がますます厳しくなる国民にとって、将来に備えた財産形成のためには、20~30代の若年層からNISAや確定拠出年金を活用することが社会的に重要な政策課題である。昨今の財政事情や今年度の制度改正は、国民に対してライフプランに於ける自助努力と自己責任の重要性を再認識させることになった。
以上