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採用・法律

第41回 『正社員と非正規社員の待遇格差はどこまで許されるの?』

中小企業の新たな法律リスク

生活用品やインテリア雑貨のお店を経営している高橋社長は、雇っている契約社員の数人から、自分達は正社員と同じ仕事をしているのに、正社員に支給されている扶養手当や退職金が支給されないのはおかしいと言われたため、どうすればよいか困って賛多弁護士に相談に来られました。
 
* * *
 
高橋社長:うちは以前から、正社員には扶養手当や退職金を支給していますが、契約社員には支給していません。非正規社員から支給されないのはおかしいと言われたとき、非正規社員は正社員とは違うんだ、と言って支払いを拒絶してもいいですよね。
 
賛多弁護士:いわゆる同一労働同一賃金の問題ですね。非正規社員であるという理由のみで正社員との間で待遇に差別や不合理な相違を設けることは法律上禁止されています。そして、今回のように非正規社員から説明を求められた場合、企業は待遇の相違の内容や理由等を説明する義務がありますので、高橋社長もきっちり説明する必要がありますね。
 
高橋社長:ほんとですか!?困りました。あ、でも同一労働でなければいいんですよね。
当社は、店舗での接客販売、商品の管理などは正社員と契約社員は同じ業務ですが、正社員は、これに加え、複数の店舗の統括、売上向上の指導、トラブル対応などの業務にも従事しています。また正社員には業務の変更を伴う配置転換を命じますが、契約社員には命じません。このように全く同じ業務でないので契約社員に支給しなくても大丈夫ですよね。
 
賛多弁護士:ちょっとお待ちください。正社員と非正規社員との待遇の相違が不合理といえるかは、①職務の内容・責任、②職務の内容・配置の変更範囲、③その他の事情を考慮するのですが、その考慮の際に当該待遇の性格や支給目的を踏まえて、当該労働条件の相違が不合理と評価できるかを判断するものとされています。つまり、個々の待遇の性格や支給目的が重視されており、単に正社員と非正規社員との間で職務内容が大きく異なっていても、それが当該待遇の性格や支給目的と関連性がなければ非正規社員へ支給しないことが不合理であると判断されることになります。
 
高橋社長:職務の内容の違いのみならず、待遇の性格や支給目的をみて判断しないといけないのですね。
 
賛多弁護士:例えば、契約社員に扶養手当を支給しないことの不合理性が争われた直近の日本郵便事件の最高裁判決では、扶養親族のある者の生活設計を容易にして、継続的な雇用を確保するという扶養手当の目的は、更新を繰り返して継続的勤務が見込まれていた日本郵便の契約社員にも妥当するから、契約社員に扶養手当を支給しないのは不合理であると判断されています。
 
高橋社長:当社の扶養手当も同じ趣旨ですので、当社の取扱いも不合理にあたりそうです。ね。それでは退職金はどうなんでしょうか。
 
賛多弁護士:直近のメトロコマース事件の最高裁判決では、退職金の性質や支給目的に照らして、正社員と契約社員の間で職務の内容や変更の範囲が異なることや正社員への登用制度が存在したことを考慮し、退職金の支給に相違を設けることは不合理とは評価できないと判断しました。退職金は、職務の内容等の多様な要素を考慮して決定される性格ですので、職務の内容等が異なる非正社員に支給しないことも不合理ではないと判断されたのだと思います。
 
高橋社長:そうすると退職金は不支給にしても大丈夫なんですよね。
 
賛多弁護士:いいえ。たしかに判決は参考になりますが、いずれの判決も会社ごとの待遇の趣旨や職務内容等の実態などの個別事情をみて判断していますので、必ずしもこれらの判決と同じように判断されるわけではないことに注意が必要です。
 
高橋社長:なるほど同じ待遇であっても会社ごとに判断が異なる余地があるのですね。
 
賛多弁護士:はい。貴社でもこの機会に、貴社の待遇の趣旨や各従業員の職務の実態に即して待遇を見直すべきだと考えます。その際には従業員と対話しながら進めていくのが重要です。
 
高橋社長:ありがとうございました。早速検討します。
 
* * *
 
同一労働同一賃金に関して、令和2年10月13日に大阪医科薬科大学事件とメトロコマース事件の最高裁判決が、令和2年10月15日に日本郵便事件の最高裁判決がそれぞれ出されました。
同一労働同一賃金は、パートタイム・有期雇用労働者法(※1)において、事業者に、正社員と短時間労働者や有期雇用労働者の間での不合理な待遇の相違や差別的取り扱いをしてはならないことを定められています(同法第8条第9条)。
結論的には、賞与(大阪医科薬科大学事件)と退職金(メトロコマース事件)の不支給は不合理でない、扶養手当等の各種手当や病気休暇を付与しないことは不合理である(日本郵便事件)と判断されましたが、本文でも述べたとおり、判決では各社の待遇や職務内容等を個別具体的に判断して結論を導いていますので、他の企業でも必ずしも同じ結論になるわけではないことに注意が必要です。
ある待遇の相違が不合理かを検討するうえでのポイントは、正社員と非正社員との間の①職務の内容(責任を含む)、②職務内容・配置の変更範囲、③その他の事情という各要素を考慮する際に、当該待遇の性格や支給目的を踏まえて上記各要素を考慮する必要があるという点です。
 なお、厚労省の「同一労働同一賃金ガイドライン」において、各待遇の相違が、問題となる例と問題とならない例が挙げられていますので参考にしてください。
また、企業は、非正規社員から説明を求められた場合は、待遇の相違の内容や理由等を説明する義務があります(パートタイム・有期雇用労働法第14条第2項)。そのため、もし企業が待遇について不合理な相違でないことを説明ができなければ裁判で不利益に考慮されてしまう恐れがあります。
今回の最高裁判決や法改正により、今後は、企業としては正社員のみならず非正規社員とも対話を積み重ね、双方納得のいく待遇体系に見直す努力をすることがより一層重要になってきます。
 
以上
<ご参考>
・同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省HP)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html
 
(※1)パートタイム・有期雇用労働法は、2020年4月1日から施行されており、中小企業には2021年4月1日から適用されます。
 
 
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 北口 建

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