電子帳簿保存法が2022 (令和4)年1月1日から大幅に改正されたことにより、企業の経理部門はこれから電子化に向けたシステム対応を迫られることになります。
今回の電子帳簿保存法の改正では、紙の書類を電子化して保存する様々なやり方が認められました。経理に関連する伝票や帳簿、請求書、領収書などの書類を扱うすべてのシステムが変更の対象です。
会計システムだけではなく、販売仕入システムや経費精算システムが改訂され、さらには電子データの管理システムの導入が必要になります。
電子帳簿保存法の改正後、2023(令和5)年には消費税のインボイス制度の導入が決まっていますから、システムの改訂が続くことが予定されています。
経理担当者はITやシステムの専門家ではありません。こうした状況のなかで、対応を迷うことも多いでしょう。
そこで今回は、「システム導入で〈経理がやってはいけない3つのこと〉」を説明します。
御社の経理は、システム化の対応方針が決まっていますか?
やってはいけない① 新しいシステムにすぐ飛びつかない
電子帳簿保存法の改正を受けて、会計システムだけでなく関連する業務システムの開発会社は、電子帳簿保存法対応版をリリースします。
業務システムの開発販売会社にとっては稼ぎ時ですから、現在使用している会計システムや販売仕入システムについて、電子帳簿保存法対応版にバージョンアップするように求めてきます。また、この機会に新しいシステムへの乗り換えも提案営業してくることでしょう。
ここで注意しなければならないことは、システム変更時にはプログラムのバグ(プログラムの誤りや欠陥)がつきものだということです。
ソフトウェアを新しくしたら、正しく動作しなくなったり、操作中にシステムがダウンしてしまったり、という不具合を経験したことは誰にでもあるはずです。ですので、会計システムの電子帳簿保存法対応版が提供されても、「すぐに飛びついてバージョンアップしない」ようにしましょう。
せっかくシステムをバージョンアップしても、業務が止まってしまったり、エラー対応で取引先に迷惑をかけてしまったりするようなことがないようにしたいものです。
電子帳簿保存法の対応は緊急性が低いので、会計システムなどのバージョンアップについては、しばらく様子を見て、他社での安定稼働を確認したうえで導入することをお勧めします。
次の会計システムのバージョンアップは、いつ頃を予定していますか?
やってはいけない② 古いシステムを使い続けない
新しい経理システムが提供されてもすぐに対応する必要はないと言いました。しかし逆に、慎重になりすぎて、対応が遅すぎるのも問題です。
一般的に経理社員は仕事柄、経費の支出が増えることを好まない傾向にあります。特に自分が使うシステムに関してはガマンしがちです。そのため、何年も前の経理システムをそのまま使い続けているようなケースも少なくありません。
経理社員は倹約して経費を抑えているつもりです。しかし実際には、効率の悪い仕事のやり方を続けて、会社に高い人件費を払わせていることに気づいていません。中小企業においては、必要なIT投資をせずに労働生産性が低迷し続けている経理部門が多いのはこのためです。
電子帳簿保存法の改正によって、経理業務の効率改善につながる新しいシステムやサービスが、中小企業でも導入可能なリーズナブルな価格で提供されています。経理社員の年間の作業時間を人件費に換算すれば、すぐに元が取れるでしょう。
IT費用をケチって、高い人件費を負担し続けていませんか?
やってはいけない③ システムを自社の独自仕様に変更しない
ソフトウェアは、会社の業務に適したものを使うのが理想です。しかし、市販されているソフトウェアは多くの会社が使えるように汎用的に作られています。それぞれの会社の独自のやり方には適応していません。
これから経理業務のデジタル化を進めていくにあたり、自社にぴったりのソフトウェアやサービスが見つかるとは限りません。
市販のソフトウェアに、自社の処理方式に適した機能がない場合、自社使用にプログラムを変更してもらったり、新しく機能を開発して付け加えてもらったりすることがあります。いわゆるシステムのカスタマイズです。
経理業務に関しては、システムのカスタマイズはやめましょう。
理由は2つあります。
1つ目は、経理業務は差別化する仕事ではなく、標準化する仕事だからです。
デジタル社会においては、会社間の取引がデジタルデータでやり取りされます。どこの会社も標準的なデータ形式で、標準的な処理方式を採用していれば、会計処理や決済処理が簡単に自動化できます。
しかし、自社だけが独自の方式を採用した場合は、途中で会社の方式に変換する余計な工程が加わり、そこで作業効率が悪くなるのです。
2つ目は、カスタマイズするとその後、継続的に費用負担が増加するからです。
経理システムは毎年のようにバージョンアップされます。将来的にも、インボイス制度導入など大きな改訂が待ち受けています。
自社の独自仕様にしてしまうと、バージョンアップや制度変更のたびに、カスタマイズ費用が余分に発生することになります。
経理業務に関しては、独自の処理方式をシステム化するのではなく、標準的なシステムに仕事のやり方を合わせていきましょう。
余計なお金と時間を掛けて、経理の処理方式にこだわる必要がありますか?
社長は「システム導入でやってはいけないこと」を経理に伝えておく
社会のデジタル化が進むにあたり、経理もその対応を避けては通れません。
社内からも社外からも、たくさんの要望があるでしょう。経理担当者はやるべきことが多すぎて、どう対応していいのか迷っているはずです。
社長としては、経理部門と早い段階で打ち合わせして、「現状の業務の問題点とその解決のために導入すべきシステムについて」検討してください。
そのとき、今回確認した「システム導入でやってはいけない3つのこと」を伝えておくと、基本的な対応を間違えないですみます。
「システム導入で〈経理がやってはいけない3つのこと〉」
①新しいシステムにすぐ飛びつかない
②古いシステムを使い続けない
③システムを自社の独自仕様に変更しない
今後経理では、電子帳簿保存法の改正やインボイス制度に対応するために、新しいシステムを検討する機会が増えることが確実です。
システムの導入は、一度誤った方向に進んでしまうと、やり直したり、軌道修正したりするのに多大な時間とコストがかかります。
そうならないように、社長はやってはいけないことを経理に早めに伝え、定期的に検証するようにしておくと安心です。
御社の経理は、誤ったシステム対応をしようとしていませんか?
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