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第110回「コロナの危機に瀕して劇的なビジネスモデルの大転換を成し遂げる」シノプス

深読み企業分析

シノプスは1987年創業の流通業界向けのパッケージソフトの会社である。1996年に販売を開始した物流最適化システムを皮切りに、1997年には卸売業向け在庫最適化システム、1998年には物流センター内ロケーション最適化システム、2004年の通販業向け自動発注システムなどの開発を通じて順調な成長を遂げてきた。

特に近年は自動発注システムに注力し、2006年に小売業向け自動発注システム、2009年には日配食品に対応した自動発注システム、2017年には需要予測型自動発注システム、2018年にはコンビニ向け発注数自動追加システム、2019年にワンストップ自動発注サービス、2020年5月緊急時自動発注サービスなどを開始している。

この間、2018年12月にはマザーズに上場した。2010年代の成長は目覚ましく、2014年12月期から2019年12月期の5年間の年平均成長率は売上高で20.6%増、営業利益で73.8%増となっている。とはいうものの、2019年12月期の売上高は11億円、営業利益は3億円と規模的には依然小規模であった。

そんな順風満帆な同社を襲ったのがコロナ禍であった。もちろん、これは同社だけの話ではないが、顧客の混乱には相当なものがあり、営業自体が停滞する状況となった。そこで、同社が選択したのが、それまでのパッケージソフト販売から、クラウドによるSaas型ビジネスへのビジネスモデルの大転換であった。

同社では早くも2020年6月にはクラウドサービスをスタートさせている。コロナに対して世の中が認知し始めてわずか半年も立たない時期であった。当然ながら既存ビジネスがコロナで停滞気味の中、新規ビジネスを立ち上げるわけであるから、業績は大きな落ち込みとなった。2020年12月期の売上高は16%ほど落ち込み、営業利益に至っては10分の1以下へと落ち込んだ。

しかし、翌2021年12月期には大幅な業績回復を示し、今2022年12月期もその回復に弾みがつき、3年目の来期には過去最高益もうかがうような勢いである。

同社のコアになる競争力の高いサービスは惣菜におけるクラウド型需要予測・自動発注サービスである。現在において小売業は様々な商品で自動発注システムの導入を行っている。最近はAIによる自動発注システムはむしろ常識ではあるが、同社が得意とする総菜分野は自動発注が極めて困難な商品と位置付けられてきた。

これは一般的にAI手法として用いられるディープラーニングが総菜の需要予測には不向きな点がある。ディープラーニング法の AIで は、例えば囲碁の盤面は19×19、将棋は 9×9 、チェスは 8×8 というような固定の盤面の上にあり、かつ、コマのそれぞれの動き方のルールが決まっているものであれば、その何億通り分を、過去の実績、勝敗の実績を紐解いていけば、おそらくこうしたらこうだという答えが出る。

しかし、同社が取り組む総菜では、道路の前に新しい店ができるかもしれないし、向こう側に競合店がリニューアルオープンするかもしれないし、特売セールをいきなり打たれるかもしれない。また、商品そのものも、毎年、毎年、1,000 を超えるような新商品が世の中に出てくる。あるいは値段も 228 円の牛乳がいきなり 50 円引きされてしまうこともあり、値段がころころころころ変わるので、価格弾性値も過去のとおりに動くわけではない。

このような商品をAIで扱う場合に同社が最適と考える手法は、エキスパート法という AI となる。エキスパート、つまり専門家が過去の経験から仮説と検証を交えて、不確定な変数も含む連立方程式をいくつも一つずつ紐解いていくという方式である。当然、簡単に解けるわけではなく同社でも20数年かけてトライアンドエラーを行って、ようやく確立した手法である。

この方式による総菜の自動発注に関しては、中堅スーパーとの実証実験から極めて高い効果、つまりは惣菜カテゴリの収益性向上という結果が表れたことで、急速に普及し始めている。

今後はさらに、惣菜カテゴリ向けに、最適なタイミング・最適な割引率を自動計算するオプション機能も付ける。まさに「AI値引き」と呼べる仕組みを追加することも行う。さらには惣菜のみにとどまらず、日配や生鮮など賞味期限が短いカテゴリ全般で利用できるようにしてゆく模様である。

このようにして、コロナ前の2019年12月期には45%ほどに過ぎなかったストックビジネスの比率は、2022年12月期第3四半期には74%に達しており、コロナ禍を経てわずか2年半で極めて安定的なビジネスモデルへと変貌を遂げている。

有賀の眼

パッケージソフトはその都度売り上げに立つものであるが、クラウドになると毎年コンスタントな売上は望めるが、キャッシュフローから言えば収入が後ろ倒しになるビジネスである。その意味においてはパッケージソフト販売からクラウド型のサービスへの転換は、そうそう同社のような規模の企業が踏み切れる決断ではなかったと思われる。

しかも、コロナという前代未聞の危機に瀕した状況であればなおさらである。普通であれば、あえてそんな混乱期にこんな大胆な進路変更はできないものである。むしろ、この混乱が収まってからやろうと思うのが普通であろう。しかし、まさに世の中がコロナによってクラウドが急速に浸透し始めた時期ゆえ、結果的には極めていいタイミングでのビジネスモデル転換ではなかったかと考えられる。

時に経営者にとってこのような英断が必要であることを見事に納得させる事実ではないかと思われる。

 

 

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