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第105回「クラウドと電子書籍市場成長の後押しで高成長軌道に」はてな

深読み企業分析

はてなという会社は、2001年に「人力検索サイトはてな」を始めたところからスタートしている。日本語の検索エンジンはヤフーが1995年、グーグルが2000年に開始した。検索エンジンとはネットの利用者が検索したい言葉を入力すると、検索システムが働き、その言葉に関連する文章が掲載されているサイトをネット上から探し出し、そのシステムが検索者にとって有用であろうと考える順にランキングして表示するものである。

しかし、検索サイトは単語の羅列で質問するような形には適しているものの、人間が考える質問は通常もっと複雑である。それらは検索システムでは十分に意図を読み取れないということで、同社はそのような文章化された質問をネット上に掲載できるようにして、見た人が答える、つまり「人力」でその疑問(つまり、「はてな」ということ)に答える形を提供した。

同社はこのようなサイトの草分けであるが、その後同様のサイトが次々と立ち上がり、現在はその中で2004年にYahoo!ジャパンが立ち上げた知恵袋というサイトが圧倒的なシェアを獲得している。現状ではてなの検索サイトは完全にそれらに埋もれてしまい、マイナーな存在となっている。

同社はその後、お気に入りのサイトをネット上にマークするはてなブックマーク、そしてはてなブログなどを展開する。一時期はそれらの収益貢献ウエイトも高かったが、現時点で収益のかなりの部分を占めるのが、クラウドのサーバー監視サービス「Mackerel(マカレル)」と出版社向けのマンガビューワーで、両事業でおおよそ売上の60%ほどを占める会社となっている。

サーバーの監視システムは、かつては企業内のIT技術者が自ら作成して使っていたものである。しかし、高度な技術ではないというもののそれなりに手間がかかるため、リーゾナブルな価格で便利なパッケージ製品には潜在的なニーズがあったと考えられる。しかも、同社が継続的に利便性を向上させる機能を付加し続けていることで、後続企業との差別化を図っており、高シェアを獲得している。

なお、Mackerelについては、アマゾンウェブサービス(以下「AWS」)のパートナー制度「AWS パートナーコンピテンシープログラム」において、「AWS DevOps コンピテンシー」認定を、同社が国内企業で初めて取得している。つまり、Mackerelがクラウドのシェアではトップと言われているAWSのお墨付きをもらっているわけであり、同社ではAWSの顧客企業に対しMackerel採用を推し進めている。また、2017年にはマイクロソフトとも提携しており、これによってクラウドの世界NO1、NO2ともに採用されたことになる。2019年にはGoogle Cloudとも連携している。

世の中全体が急速にクラウドシフトを進める中において、同社のMackerelも引き続き高成長を遂げるものと考えられる。AWSの中で、サーバー監視サービスとしての認知度が向上していることから、売上は年率20%強(推測)と順調に成長している。現時点の売上は年8億円程度まで拡大したものと思われる。

高成長する同社のテクノロジーソリューションビジネスにおいてMackerelと並ぶ柱が、受託開発と保守運用である。保守運用は受託開発して引き渡したサービスの保守と運用であるが、運用は主に広告運用である。かつては、任天堂のゲームに関連するサイトの開発なども行っていたが、このところは2017年度から開始した出版社向けのマンガビューワーの「GigaViewer」のウエイトが圧倒的となっている。すでに、保守運用を含めると、受託関連だけでもコンテンツプラットフォームやコンテンツマーケティングなど従来ビジネスを上回る構成比になりつつある。

この背景にはこの10年ほどの電子コミック市場の急成長と、それによる大手出版社の業績の急拡大があると考えられる。すでにGigaViewerは大手出版社中心に14社、18サービスによって採用されており、今も引き合いが続々と舞い込んでいる模様である。

ただし、全社業績を見ると、2020年7月期、2021年7月期と落ち込んでいる。これはコロナによって、ブログビジネスの広告が低迷し、ブログを企業向けに高度化したブログメディアもコロナで開拓がストップし、ブログメディアの中でも外食や旅行関連のメディアの運用も停滞したためである。

その間も、MackerelとGigaViewerは高成長しており、コロナがそろそろピークアウトしかけている今期からは再び、全社でも高成長に転じている。

有賀の眼

ネット企業は市場自体が急成長するとともに、そのベースとなる技術もめまぐるしく進化する。そのため、一つの市場、一つの技術に固執するうちに、あっという間に市場そのものが消失するようなケースもある。そこで、ネット企業はまさに数年単位で新市場の開拓、新技術の開発に挑戦することになる。

それゆえ、祖業と現時点の事業を比較すると全く異なっているケースが多く見受けられる。まさに同社もその典型である。顧客自体も当初のビジネスは一般個人が相手であった。しかし、現在の主要顧客は企業である。ただし、同社のユニークな点は、現在の主要事業の差別化要因が、ネット企業であるにかかわらず、必ずしも技術に特化したものではないという点である。

MackerelもGigaViewerも実は技術的に他社が真似できないというものではないのである。しかし、共に高シェアを獲得している点が、最も注目すべき点である。このバックグラウンドは、まずは導入時の目の付け所であり、次がまさに顧客の痒い所に手が届くような絶え間ないサービスレベルの改善である。

我々アナリストはどうしても技術的なブレークスルーに目を引かれるところがある。しかし、実際世の中で進んでいることは実は小さな改善の積み重ねで、いつの間にか他社の手の届かないところにたどり着けるということも意外と多いのである。

私がそのことに気付かされたのが、2000年代半ばの豆乳市場の急成長であった。豆乳市場はそれまでも数年に一度、健康志向で繰り返しブームになっていたのであるが、どうしても味がネックとなり、やがてブームが沈静化することを繰り返していたのである。しかし、2000年代半ばにはまさに飛ぶ鳥を落とす勢いの成長を遂げるようになり、日常飲料として定着しつつあった。その成長をけん引していたのが紀文フードケミファという会社である。

確かに、それまでの豆乳とはだいぶ違って、飲みやすく、継続的に飲用できるようなものであった。そこで、その秘密を探るべく取材を重ねたのであるが、決して画期的なブレークスルーがあったわけではないと説得されたものである。つまり、毎年、毎年少しずつ改良を重ねたことでおいしいと思われるものに変わっていったということであった。その時はぴんと来なかったのではあるが、その後の年月をかけて私の中で、小さなことの積み重ねこそが、むしろなかなか真似ができない差を生むのではないかと考えるようになった原点である。その面から今は、はてなにも同じ感覚を抱くのである。

なお、紀文フードケミファは2008年にキッコーマンに買収されており、買収時点から本格的に豆乳事業を行っているキッコーマンが豆乳市場では圧倒的なトップシェアを占めている。

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