menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

経済・株式・資産

第33回 逆風をチャンスと捉える経営:「ニトリホールディングス」

深読み企業分析

2012年末に始まったアベノミクスで日本の景気もやや元気を取り戻した。しかし、金融緩和による円安は輸入依存度の高い内需企業には逆風となった。ただし、アベノミクスによる追い風もあって、多くの内需企業は製品価格の引き上げを図ることで、売上高を伸ばし、収益性を高めることができた。
 
そんな中にあってニトリは製品の80%近くを輸入に依存する企業でありながら、この間値上げをせずに収益力を保った。同社の業績を見ると2013/2期から今期まで着実に営業利益を伸ばしている。
 
 
fukayomi33no1.png
 
 
すでに述べたように同社は製品の80%ほどを海外で生産している。そのため円安が1円進むと、原価率が0.34%pt悪化する。2011年度から2014年度に為替は38円円安となっているので、同社にとっては13%ptの原価率悪化要因ということになる。現在の売上高で計算すると、538億円の利益のマイナス要因である。しかし、同社の営業利益は2011年度から2014年度までに88億円の増加となっている。
 
もっとも、円とドルでは金利差があるので為替の予約をすると円高で予約でき、実際はそこまでの影響はない。ただし、それでも2014年度までに19円ほどは円安の影響を受けていて、270億円のマイナス要因となっている。つまりその間に経営努力で358億円のプラス要因を生み出していることになる。
同社では円安に対応して、全社を挙げて原価率の改善に取り組み、実質的にはほとんど値上げをしないで、この円安を乗り切ってきた。具体的には、製品の規格を一から見直し、最適な原材料、生産地を探して製造する。さらに、物流コストも改善し、極力コストを維持することができたのである。加えて、これまで手薄だった都心への出店を強化して、ブランド力を上げることで、集客力を高めた。
 
また、並行してやや高めだが、高品質な商品の品揃えを充実することで、客単価の上昇にも成功している。価格の高い製品を投入しているのであるが、極力値上げを回避したことで、輸入品に頼っている同業他社との比較で、円安が進めば進むほど価格競争力が強固なものとなっている。
 
円安は同社にとっては逆風であるわけで、アベノミクスが始まった当初は大変なことになると認識したにもかかわらず、同社はその時点であえて値下げをしている。しかし、結果的には全社で危機感を共有したことで、この難局を乗り切ることができたと考えられる。
 
このようにして価格競争力が高まった結果、若干消費に陰りが見える中でも、直近において1ケタ台後半の既存店伸び率を達成しているのである。特に直近の四半期(12-2月)の既存店伸び率は8.8%増であるが、客単価が0.2%減なのに対して、客数が9.0%増と大幅に伸びていることは注目すべき点であろう。
 
fukayomi33no2.png
 
 
有賀の眼

同社だけではないが、強い会社はしばしば逆境こそチャンスであると述べることがある。これは逆境はライバルも同じ環境であり、それを嘆いても仕方がなく、むしろ前向きに捉えることで、チャンスが見つけやすいという意味ではないかと考えられる。
 
逆に言えば、フォローの風はライバルにもフォローであり、さらには新規参入さえ増える可能性がある。それゆえ、フォローの風が吹いているときに安穏としているといつ足元をすくわれないとも限らないのである。こう考えれば、経営にとって実は真の意味で逆境こそチャンスというのは当たり前のことかもしれない。
 
まさにそんなことを強く感じさせてくれるのがニトリという会社である。
 
 

第32回 真似て、組み合わせて、工夫して高成長、高収益:「SFPダイニング」前のページ

第34回  日本初の24時間営業スーパーを20年以上前に開始:「ハローズ」次のページ

関連セミナー・商品

  1. 社長のための「お金の授業」定期受講お申込みページ

    セミナー

    社長のための「お金の授業」定期受講お申込みページ

  2. 《最新刊》有賀泰夫「2025年春からの株式市場の行方と有望企業」

    音声・映像

    《最新刊》有賀泰夫「2025年春からの株式市場の行方と有望企業」

  3. 《シリーズ最新刊》有賀泰夫「お金の授業 春からの株式投資レッスン」

    音声・映像

    《シリーズ最新刊》有賀泰夫「お金の授業 春からの株式投資レッスン」

関連記事

  1. 第58回 中小企業のネット利用の救世主「ソウルドアウト」

  2. 第70回「顧客の不便を次々と解決するサービスの積み重ねが企業成長の原動力」インフォマート

  3. 第89回「衰退から一転成長産業に見方が変わる出版業界のニューカマー」アルファポリス

最新の経営コラム

  1. 第2回 心理的安全性が生む経営成果:意思決定スピードと市場対応力を高める方法

  2. 第1回 成長を加速する組織の条件とは? 経営者が今すぐ確認すべき10の質問

  3. AIの答えに埋もれないあなたらしさ──思いを伝える文章術5つのステップ

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 相続

    第2回 相談する人を間違えたら、とんでもないことになります。
  2. 戦略・戦術

    第五話 小さな会社の働き方改革 やり甲斐や誇りを持って仕事に取り組む
  3. マネジメント

    第六十一話 「自分が飽きるな」(山崎鉱泉所)
  4. 社員教育・営業

    第83講 クレーム対応成功の法則はまず『親身的対応7つの手順』で運ぶこと(11)
  5. マネジメント

    第141回 『「責務」と「責任」の違い』
keyboard_arrow_up
menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ