2012年末に始まったアベノミクスで日本の景気もやや元気を取り戻した。しかし、金融緩和による円安は輸入依存度の高い内需企業には逆風となった。ただし、アベノミクスによる追い風もあって、多くの内需企業は製品価格の引き上げを図ることで、売上高を伸ばし、収益性を高めることができた。
そんな中にあってニトリは製品の80%近くを輸入に依存する企業でありながら、この間値上げをせずに収益力を保った。同社の業績を見ると2013/2期から今期まで着実に営業利益を伸ばしている。
すでに述べたように同社は製品の80%ほどを海外で生産している。そのため円安が1円進むと、原価率が0.34%pt悪化する。2011年度から2014年度に為替は38円円安となっているので、同社にとっては13%ptの原価率悪化要因ということになる。現在の売上高で計算すると、538億円の利益のマイナス要因である。しかし、同社の営業利益は2011年度から2014年度までに88億円の増加となっている。
もっとも、円とドルでは金利差があるので為替の予約をすると円高で予約でき、実際はそこまでの影響はない。ただし、それでも2014年度までに19円ほどは円安の影響を受けていて、270億円のマイナス要因となっている。つまりその間に経営努力で358億円のプラス要因を生み出していることになる。
同社では円安に対応して、全社を挙げて原価率の改善に取り組み、実質的にはほとんど値上げをしないで、この円安を乗り切ってきた。具体的には、製品の規格を一から見直し、最適な原材料、生産地を探して製造する。さらに、物流コストも改善し、極力コストを維持することができたのである。加えて、これまで手薄だった都心への出店を強化して、ブランド力を上げることで、集客力を高めた。
また、並行してやや高めだが、高品質な商品の品揃えを充実することで、客単価の上昇にも成功している。価格の高い製品を投入しているのであるが、極力値上げを回避したことで、輸入品に頼っている同業他社との比較で、円安が進めば進むほど価格競争力が強固なものとなっている。
円安は同社にとっては逆風であるわけで、アベノミクスが始まった当初は大変なことになると認識したにもかかわらず、同社はその時点であえて値下げをしている。しかし、結果的には全社で危機感を共有したことで、この難局を乗り切ることができたと考えられる。
このようにして価格競争力が高まった結果、若干消費に陰りが見える中でも、直近において1ケタ台後半の既存店伸び率を達成しているのである。特に直近の四半期(12-2月)の既存店伸び率は8.8%増であるが、客単価が0.2%減なのに対して、客数が9.0%増と大幅に伸びていることは注目すべき点であろう。
有賀の眼
同社だけではないが、強い会社はしばしば逆境こそチャンスであると述べることがある。これは逆境はライバルも同じ環境であり、それを嘆いても仕方がなく、むしろ前向きに捉えることで、チャンスが見つけやすいという意味ではないかと考えられる。
逆に言えば、フォローの風はライバルにもフォローであり、さらには新規参入さえ増える可能性がある。それゆえ、フォローの風が吹いているときに安穏としているといつ足元をすくわれないとも限らないのである。こう考えれば、経営にとって実は真の意味で逆境こそチャンスというのは当たり前のことかもしれない。
まさにそんなことを強く感じさせてくれるのがニトリという会社である。