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経済・株式・資産

第89回「衰退から一転成長産業に見方が変わる出版業界のニューカマー」アルファポリス

深読み企業分析


世間ではまだあまり認識されていないが、すでに終わった衰退産業と見られていた産業が、逆風のはずだったネット化の浸透によって、実は劇的に成長産業に変化を遂げた業界がある。それが、出版業界である。
 
図は出版業界大手3社(講談社、集英社、小学館)の業績推移を示したものである。出版業界はネット社会の浸透による文字離れで、つい最近までのこの数十年間、売上高は減少を続けて来た。大手3社の売上高は2001年度の4,780億円が2017年度には3,290億円と一度も増えることなく、70%水準まで落ち込んできた。
 
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一方で、3社合計の営業利益は不動産賃貸料などの下支えがあったものの、わずかに50億円前後を行き来する水準にとどまっていた。リーマンショック時には150億円の近くの赤字に落ち込むこともあった。しかし、2018年からはまさに様変わりとなり、まるでベンチャー企業のような驚異的な成長に転じている。
 
売上高は2017年度のボトムから2018年度に7%増収に転じた途端、翌2019年度には10%増収と2ケタの増収に転じている。しかも、この20年間、50億円前後で推移していた純利益がなんと2019年度には320億円とまさに夢のような水準となっている。
 
この最大の要因は書籍の電子化である。もっとも書籍と言っても日本では現状ではその大半がコミック、いわゆるマンガであるが。電子書籍自体はすでにこの10年以上高成長していたのであるが、それ以上に紙の落ち込みが大きく、トータルの売上高はマイナスとなっていた。しかし、2017年から猛威を奮った違法サイトによる無料コンテンツのばらまきによって、読者が劇的に増え、その後の違法サイトの摘発によって、有料の読者が劇的に増えたためである。さらに、それに味を占めた大手出版社がまずは無料で読者を集めることに注力した結果、やがて有料のファン層が急速に広がったためである。まさに、禍転じて福となす典型であった。もっとも、この無料モデルはネットビジネスの典型であり、ネットに習熟していれば、ここまで気づきが遅れることもなかったとも思われるが。
 
そして、2020年はコロナによる巣ごもりでさらに一段と売上が増え、しかも鬼滅の刃の大ヒットの恩恵もあることから、2019年までに急拡大した売上、利益がさらに劇的に増えていることは疑いの余地はない。
 
さて、このように大手出版社はまさに未曽有の好景気を謳歌しているが、もともとネットの特性を出版に生かしたニューカマーも続々と現れている。その代表がアルファポリスである。同社は創業20年にも満たない若い会社であるが、ネットで小説投稿サイトを運営し、そこで作家を発掘して、紙と電子で同時に出版する。これらはライトノベルと呼ばれる軽い文調の小説であるが、さらにその小説をコミック化して紙と電子で発行するものである。
 
出版の世界は出してみなければ当たるか、外れるかわからない世界であったが、ネット化によって、投稿サイトの人気作品のみを出版することで、出版の困難さの一つがクリアされてしまう。つまり、人気が明らかな作品のみを出版するので、大ハズレがないのである。しかも、それをコミック化することでさらに売上が大きく増える。かつて、コミックは最初からコミックでスタートするため、それなりに参入障壁が高かったものである。しかし、流れ作業で、小説の作者とは別にコミック化する仕組みを作り上げることで一段と売上を増やすことができるのである。
 
その結果、同社はこの7年間で何と年率20%前後の売上、利益成長を遂げている。しかも、作品の当たり外れが小さい上、紙の本と異なって印刷代が不要で、書店からの返品もないため、出版社でありながら売上高営業利益率は30%近い水準となっている。まさに衰退する業界から生まれた高成長企業である。
 

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有賀の眼
 
この出版社の例にも驚かされますが、ネット社会の浸透によって、オセロのように白が黒、黒が白という具合に数年である産業の様相が様変わりになることはほかにも様々にあります。
 
サイバーエージェントはテレビ主体であった広告代理店の市場をネットで席巻しようとしています。やはり、出版の紙と電子のように、テレビ広告は減り続け、ネット広告は増え続けて、直近のインターネット広告はテレビ広告の60%を超えています。また、エムスリーというお医者さんのネットワークを構築した会社は、過去延々と継続してきた医薬品会社のプロパー制度を根本的に覆し始めています。
 
このように、ネットによる社会の変化は想像以上に急速です。そこにはチャンスもありますが、うかうかしているとある日突然、眼の前の自社の市場が無くなってしまう恐ろしさもあります。その意味では、ネットなんて関係ないと思わず、常にチャンスやピンチに目を光らせておくことが不可欠な時代になってきたと思われます。
 

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