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経済・株式・資産

第6回 無限の可能性を感じさせる「ニトリ」

深読み企業分析

家具のチェーンストア最大手企業ニトリは無限の可能性を感じさせる企業である。日本における流通革命を家具の世界ですでに実現させたと言っても過言ではない。そして、将来的には世界的な家具のチェーンストアとなる可能性を秘めた企業であろう。

 
日本におけるチェーンストア理論と言えば、渥美俊一氏が主宰したペガサスクラブの理論をおいて他にはなかろう。そのペガサスクラブの精神を最も具現化した企業の代表がこのニトリである。
 
ペガサスクラブのチェーンストア理論の骨格は、チェーンストアが製造・販売・流通のすべてを担い、ロープライスで高品質な商品を自社で流通させることである。この考えはまさに中抜き論であり、50年前に発刊された「流通革命」の言わんとすることと同じである。
 
昨年発刊した弊著「日本の問屋は永遠なり」においては、日本の食品流通では加工食品卸売業が機能を徹底的に強化したことによって、卸売業が産業としての地位を確立したため海外先進国のように巨大チェーンストアが勝ち組となることがなかったと述べた。しかし、それは食品流通や日雑流通など限られた分野であり、他の分野においては日本でも海外先進国同様、巨大チェーンストアが生まれているのである。
 
その筆頭はユニクロのファーストリテイリングであろう。ユニクロはすでに海外にも広く展開し、成功を収めつつあるが、ニトリもまた国内外においても成功する可能性を秘めた企業であろう。
 
ペガサスクラブで提唱しているチェーンストア理論の目標は、かつての我が国の価格体系を根本的に変えて、最終消費財を2分の1、3分の1の価格に下げようというものである。ただし、安物を安い値段で売るのではなく、高品質な商品を安く売ろうとしている。そのためには原料調達や工場立地、そして商品の物流まで自前で高度化する必要がある。
 
同社では規模がそれほど大きくない段階で、メーカーからの直接仕入れへの変更を試みるが、卸売業からの抵抗にあいなかなかうまく行かなかった。その後、海外からの輸入に挑戦するものの、生産地の気候と日本の気候の違いから、商品に不具合が生じ、大量の返品を受けるなど苦労した。

そのような困難を乗り越え、原料の調達から生産、自社物流などあらゆる面の効率化を進め、現時点では商品の7-80%を海外から輸入している。そのような状況であれば当然昨今の円安は大きなマイナスとなる。しかし、同社ではあえて円安がスタートした2012年11月に大幅な値下げに踏み切っている。

当然スタート時点での採算性は低下するが、各商品において順次、原材料の見直し、製品設計の見直し、生産地の最適化を通じて元の採算性に戻す努力を行っている。すでに半年後の2013年第2四半期には為替要因を除けば、商品入れ替えによってほぼ前年同期並みの粗利率が確保できるまでになっている。

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もっとも同社は1円の為替変動によって粗利率が0.3%pt変動する。第2四半期には前年同期比9.8円の円安であるから、それだけで2.9%ptの粗利率悪化要因となっている。しかも、下期の見通しでは17.51円の円安であり、これまで以上に業績の足を引っ張ることになる。

それに対して同社では、2012年11月の値下げと円安を吸収するため、年度内に70%の商品の切り替えを行う計画であり、第2四半期までに36%の切り替えが完了している。通期では70%の目標であるが、100%の切り替えも視野に入っている模様であり、値下げによる数量増もあって、これだけの逆風を乗り越えそうな勢いがある。

同社の海外展開は8月末では台湾の16店舗だけであるが、いよいよ10月に米国に2店舗を同時開店し、チェーンストアの先進国である米国に挑戦する。当然日本とは生活様式が異なるため、現地にあった商品開発自体に時間がかかることから、長期的な挑戦にはなろう。しかし、チェーンストアの先進国である米国でどこまで同社の実力が通用するか、非常に楽しみである。


《有賀の眼》
同社の強さの源泉は、チェーンシステムもさることながら、人材育成の仕組みによる部分が大きいと考えられます。同社では日本型のがんばれとか叱咤激励とかは認められません。常に数字をもとに議論し、改善方法を考えるというやり方です。中途採用の社員も含め、社内で訓練することによって業務改善のためのレポート提出を個々人に義務付けています。書くことによって検証もできるため、原因、結果があやふやになることを防げます。それによってやる気が引き出され、能力も高まって行きます。それゆえ、流通業の中での就職人気がトップと言うことも十分うなづけます。昨今、職場環境のストレスが問題になることが多くなっていますが、やりがいのある職場を作ることが実は最も企業の発展には重要であると考えさせられる。

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