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第7回 コーディネートで飛躍する機械メーカー「日特エンジニアリング」

深読み企業分析

同社は1972年に自動巻線機の製造販売を開始した。その後も終始一貫して、自動巻線機に特化した戦略が功を奏し、世界にも類を見ない自動巻線機専業メーカーとして君臨している。自動巻線機の市場は全世界で500億円程度であるが、同社のシェアは31%で、2位の3倍の規模となっている。自動巻線機はコイルの製造装置で、特に同社は小型コイル用に強い企業である。コイルは電気回路の主要受動部品だが、それ以外にもモーターやセンサーなどにも必要不可欠な心臓部である。

電子部品のコイル自体はモバイルの高機能化、小型化に伴って大量に使われるようになり、加えてより一層の小型化が進んでいる。フィーチャーフォンには1台当り10-15個のコイルが使われているが、スマートフォンになるとその数倍のコイルが使われることになる。そのようなことからこのところスマホで注目される同社であるが、コイル自体のすそ野はスマホ以外にも大きく広がっている。

通信と並んで自動車産業に使われるコイルも急速に数量や種類が増えている。まず、自動車の電子化が進むことによって、その電子回路に用いられるコイルの数が増える。次に、スイッチ一つで動く可動部が増えることによってそれぞれにモーターが必要になるので、やはりコイルの使用量が増える。

さらに、自動車も含め様々な産業でセンサーの需要も急速に増加しており、センサー用のコイルも増加している。センサーの多くはフレミングの法則によって熱を電気に変える仕組みを用いているものが多く、コイルが心臓部の役割を果たす。卑近な例を挙げれば、電子体温計はまさにコイルによって熱を電気信号に変える機能をセンサーとして用いたものである。以上から、同社の成長は通信機器と自動車産業によって支えられていることになる。

すでに述べたように同社は自動巻線機の世界トップメーカーであるが、今そのビジネスモデルは大きく変貌を遂げている。これまでは単に製造装置を部品メーカーに納入するという形であったが、今や物作りは製造装置の開発と密接に結び付き始めており、最終製品の開発段階から最終製品メーカーもしくは部品メーカーと共同で製造装置を開発するという形に変わってきている。

このように最終製品メーカーもしくは部品メーカーとの共同開発を行うと、同社は単体の製造装置の開発にとどまらず、前工程から後工程まで組み込んだモジュールとして開発して納入することを要求される。

モジュールとして納入する場合、前工程や後工程に関してはそれぞれの専門メーカーとアライアンスを組むことによって、さらに高度な仕様が可能となる。そこで同社ではこの1年で数社の企業とアライアンスを組んでいる。その場合、海外の部品メーカーに対して販売網やメンテナンス拠点を持つ同社が中心的な製造装置メーカーとしてコーディネートすることになる。

これまでも自動車メーカーが同社と共同で部品の製造装置を開発し、自動車メーカーは出来上がったその製造装置を数社の部品メーカーに購入させ、部品を複数購買する形にしていた。

一方で、スマホメーカーはこれまで製造装置の開発は部品メーカーに任せることが多かった。部品メーカーが同社と共同で製造装置を開発するというパターンである。その意味で、アップルはアプリとデザインの会社であったということができる。しかし、ライバルを出し抜くために、より画期的なスマホやタブレットの開発が必要となり、今やアップルももの作りの会社に変わろうとしているのである。

部品の製造装置開発のためにアップルが過去最大規模となる105億ドル(約1兆円)の資金を投じるという報道もあった。

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リーマンショック時に大きく落ち込んだ同社の受注は、その後スマホの台頭と自動車の拡大によって大きく回復した。一般的な製造機械の場合、その機械で製造される部品や製品の生産量に比例して受注が変動するパターンが多い。

しかし、同社の装置は最終製品の心臓部に相当する部品の製造を担うことが多く、ある程度生産能力に余裕をもたせたものとなっており、必ずしも部品の生産量に受注が連動するわけではない。むしろ、画期的な技術が導入される新製品が発売される半年から1年前に受注が大きく膨らむパターンとなる。

このところやや停滞していた同社の受注が昨秋より拡大に転じていると見られる。この背景は本年末にも発売が見込まれるアップルの新型iPhone向けではないかと考えられる。次世代機は特にアップルがライバルに差をつける思いで革新的な技術を導入するとみられており、同社の活躍余地が広がるものと思われる。


《有賀の眼》
同社を見るポイントはコーディネート機能である。スマホのような世の中を根本的に変える技術やサービスは、そうそう簡単に次から次へと開発できるものではない。そこで、既存技術やサービスを組み合わせて、新しい価値を生み出す方策としてコーディネートが重要になる。同社の場合も自社のコア技術に他社の技術をプラスして、モジュールとして販売する形が多くなっている。これは開発段階から中心メーカーとなって部品メーカー、最終製品メーカーと密に接触することによって可能となる。

コーディネートまでは行かないが、二つの製品やサービスを組み合わせ、全く新しい価値を生み出すという方法は新市場創出の極めて有効な手段である。必ずしも新しい価値を生んだところまでは行かないまでも、市場拡大に寄与したという意味で、身近なものに文具のシャーボ(シャープペン+ボールペン)や消しゴム付きの鉛筆がある。

食の世界ではかなりの種類があるが、代表的に思い浮かぶのはカレーうどんやカツカレーがある。カツカレーは新しい価値を生み出したといってもいいのではないだろうか。ラジカセ(ラジオ+カセットテープ)は新しい価値を創造したと言えるほど普及し、その後のCDラジカセの市場拡大につながるものとなった。ローラースケートとシューズを合体させたローラーシューズも手軽さが評価され、新たな市場を創造した商品といえよう。

いわゆるレンズ付きフィルムは、レンズとフィルムを組み合わせて、使い捨てカメラとしたもの。デジカメの普及で最近はそれほど目にすることもないが、かつては大きな市場を形成した。しかし、そのデジカメから市場を奪ったのが、携帯電話にカメラを付けたことが最初のきっかけであった。やがてiPhoneの登場で写真はインターネットと完全に結びつくものとなった。

iPhoneはいわば、インターネットツールに電話機能を加えたものという位置づけになる。その原型はNTTのi-modeであるが、これは逆に電話にインターネットを付けたものという位置づけである。主体を変えるだけで、価値自体が変わる典型例かもしれない。

このようにゼロから何かを生み出すのではなく、既に存在するものの組み合わせで、新しい価値を生み出すという意味で、鮮烈に記憶に残っているのがソフトバンク社長の孫正義氏である。

氏は学生時代、製品やサービスを羅列し、その組み合わせを無数に作って、その中からアイディアを生んだということ。その中で、ソフトバンクの立ち上げ資金となったのが、電卓と辞書を結びつけた電訳機である。氏は電訳機の原型を制作し、それをシャープに売り込んで1億円の資金を獲得し、今のソフトバンク立ち上げの初期資金としたと言われている。

そのような意味では、アイディアに詰まったら、既存製品、サービスの無数の組み合わせを作ってみるのは誰でも簡単にチャレンジできる有効な手段と言えよう。

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