日用雑貨卸売業のPALTACの業績が好調である。図は日本の小売り流通を担う卸売業の内、上場している大手4社の経常利益推移を比較したものである。加藤産業と三菱食品が加工食品卸売業で、あらたと同社が日用雑貨卸売業である。ただし、同社は一時期、医薬卸のメディセオの子会社になり、上場が廃止となっていた。その後、再上場したが、上場廃止の間は正確なデータが取れなかったため図では点線で示している。
我が国における卸売業は、かつて卸不要論がしばしば叫ばれた逆風に逆らうように、その機能性を徹底して高めたことによって、もはや日本の小売り流通にとってはなくてはならない存在となっている。その結果、大手各社は1990年代、2000年代を通じて右肩上がりの成長を遂げてきた。我が国の小売り流通において、卸売業が必要不可欠になった経緯は、大竹愼一氏との共著である「日本の問屋は永遠なり」を参照いただけると幸いです。
その中にあって、三菱食品の前身である菱食と同社がロジスティクス(戦略的物流)では他を圧倒する存在感を示してきた。小売り流通において、最も重要なことは小分け物流であり、これをいかにローコストで行えるかが、競争力の最大のポイントとなった。この両者はそれぞれ別々の方向性で、小分け物流のローコスト化を推し進め、継続的に高い成長を遂げてきた。
しかし、2010年代になると、同社の業績の好調が突出して目につくようになった。この一つの背景は日雑卸の最大顧客であるドラッグストアの躍進があるが、それ以上に一時期差別化効果が薄れたロジスティクスにおいて、再び大きな差が出始めたことが挙げられよう。
この背景にあるのが人手不足による物流コストの上昇圧力である。卸物流のノウハウの違いを簡単に示すと、同社と三菱食品は重装備化であり、他社は軽装備化である。また、それに加えて、この20数年間に進んだ日用雑貨卸と加工食品卸の違いが、前者は汎用センター主体のまま進み、後者では小売業の専用センター化が進んだことであった。
汎用センターであれば、遠い将来まで使用する計画で行えることから、同社ではそれまで同様重装備化を進めてきた。しかし、専用センターのウエイトが高くなると、専用センターは5年、10年先には契約が切れる恐れもあることから、重装備化にはリスクが伴うため、どちらかと言えば軽装備となった。その結果、三菱食品では物流センターの重装備化、自動化の技術蓄積がこの10年ほど停滞していた。
その間も同社は重装備化、自動化を進め、毎期のようにその改善効果が業績に反映されてきた。特にここ2、3年は、人手不足が深刻になり始めたことで、それまでの人手に頼った物流センターのコストが急速に上昇してきて、同社の重装備化、自動化の優位性が急速に脚光を浴びるようになってきた。
表は日用雑貨卸のあらたと同社の直近9四半期の売上高、営業利益の推移を比較したものであるが、両社とも加工食品卸に比較して好調ではあるが、特にこの2四半期ほどの同社の売上の伸び率上昇には目を見張るものがある。これこそまさに、物流コスト上昇に悩む小売業が同社の提案を受け入れて、取引量拡大に弾みがついてきた証であろう。
同社ではこの7月に新潟で最先端の自動化装置を導入した物流センターが稼働し始めた。同社ではこのセンターを最重要な戦略的センターとしており、徹底的に自動化、省人化を進めたものとなっている。このセンターで通常業務をこなしながら、更なる最適解を導き出し、来秋には関東にさらに進化した大型物流センターを稼働させる予定としている。
有賀の眼
小売流通における小分け物流は極めて煩雑で、コストのかかる作業である。しかし、過去数十年間の卸売業の努力によって、我が国における小分け物流のローコスト化のレベルは、すでに諸外国とは比較にならないほど高度化している。まさに、なぜ日本ではウォルマートを始めとした海外の巨大小売業が成功しなかったかと言えば、この小分け物流において、卸売業の技術水準が極めて高度化していたことが背景にある。
いくら商品価格が安くても、少ない品揃えで、しかもケース単位で買わなければならないような店舗は、豊富な品ぞろえで、価格もリーゾナブルな店舗にかなわなかったのは当然であろう。そのリーゾナブルな価格で、豊富な品ぞろえを可能にしたものこそ、日本の卸売業の高度なロジスティクス技術であった。
その中にあって同社は物流センターの装置化、自動化で現在脚光を浴びる存在となりつつあるが、実は過去においては必ずしも重装備化、自動化のすべてがローコスト化につながっていたわけではなかった。一例として、小売業の店舗ごとにオリコン(折り畳み式コンテナ)に仕分けされ、ソーターで店舗に運ぶためのケージのところに流れてくる場合を取り上げてみよう。次の作業としてはそのコンテナをケージに積み上げる作業があるが、同社ではかなり前から自動積み付け機を利用している。当時、他社の倉庫ではあまり利用していなかったため、なぜ利用しないのか尋ねたところ、人手で行っても自動で行ってもコストに差がないためという返答であった。実は同社でもコストは変わらないと述べており、それでもやるのは倉庫作業で人にとって大変な作業は、仮にコストが同じなら機械化するという姿勢からであった。
歴史的に長期間同社はそのような姿勢で物流センターを構築してきたが、一方でローコスト化に威力を最も発揮したのは、庫内作業員の改善活動であった。その改善活動に人のエネルギーを注がせるためには投資はかさむが、力作業や煩雑な作業は機械に任せるという方式を取ったため、コスト自体も他社比では低下しているものと考えられる。
しかし、2010年代に入るまでは必ずしも機械化がローコスト化に直接大きく効いたわけではなかったと考えられる。ところが、ここ数年で自体は大きく急変する。それは人手不足による人件費の急騰である。しかも、小売業などと並んでやはり倉庫作業も人の集まりにくい3K職種であるためだ。それに対して同社では徹底的に進めてきた機械化の恩恵が今になって急速に効果を発揮してきたと考えられる。
日雑卸だけに限らず、他の卸売業では物流センター投資を軽くするために、人手に頼った思想で運営してきたことによって、現在のような人手不足時代を迎えても、簡単には機械化が進みにくいものとなっている。つまり、小分け在庫型物流センターの自動化、機械化では同社が他社のずっと先を走っている状況にあると考えられる。そのため、小売業では小売業自体のローコスト化が急務であり、同社が提案する物流の効率化の話に乗りやすい環境となっていると考えられ、同社の取扱量が急拡大しているのであろう。
このように一見無駄に見えることでも、人にやさしい思想というものが、目に見えない形で会社の財産となっている例としても、同社の今後に注目していきたいと思う。