menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

経済・株式・資産

第85回「上位企業をごぼう抜きにする力強い成長性」プリマハム

深読み企業分析


 1992年度から2001年度の10期間の累積営業利益が122億円の赤字と風前の灯のような状況であったプリマハムですが、その後の20年間で見違えるような変貌を遂げました。今期はコロナの追い風もありますが、現時点のH&Lリサーチの営業利益予想は200億円を超えるものとなっています。この水準はかつて第3位であった丸大食品をはるか下に見下ろし、米久を取り込んだ2位の伊藤ハム米久とほぼ肩を並べる水準になります。
 
 
fukayomi85no1.jpg
 食肉加工業は食肉事業とハムソーセージを主体とする加工食品事業に分かれます。食肉に関しては依然同社の存在感は大きなものではありませんが、加工食品事業では特に利益面ではダントツの存在になりつつあります。
 
食肉加工業大手4社の同社、日本ハム、丸大食品、伊藤ハム米久のハムソーセージの合計売上高はこの8年間で年率0.8%増となりました。大手のシェアは全体で上昇していますので、市場は金額ベースではほぼ横ばいでしょう。それに対して各社の売上高の年平均成長率は同社が5.6%増、伊藤ハム米久が1.2%増、日本ハムが0.6%減、丸大食品が1.6%減となっています。
 
その結果、8期前の同社のシェアは12.9%でしたが、2019年度には18.6%と5.7%ptも上昇しました。各社のシェア変化率を見ると、伊藤ハム米久が1.2%pt上昇、日本ハムは3.3%pt下落、丸大食品は3.6%pt下落となり、まさに同社の圧勝です。
 
なぜここまで大きな差ができたかと言えば、生産コストに極めて大きな差があるためです。ハムソーセージはだいたい1kg1,200-1,400円くらいの出し値になります。それに対して原材料費は各社で大きな差はありませんが、生産コストに大きな差があります。2-3年ほど前のデータですが、kg当たりの生産コストは同社が100円強に対して、日本ハムは200円以上、伊藤ハム米久でも200円弱と大きな差があります。
 
このコスト競争力の差でシェアの変化に違いが出て、結果的に営業利益にも大きな差が出ています。ハムソーセージを含む加工食品全体の売上高は同社が1,870億円、日本ハム3,390億円、伊藤ハム米久3,000億円、丸大食品1,710億円ですが、営業利益は同社が113億円、日本ハムが114億円と肩を並べていて、伊藤ハム米久67億円、丸大食品17億円と大差をつけています。なお、すでに公表されている各社の2021年3月期第1四半期決算の実績の営業利益は、同社の35.7億円に対して日本ハム、伊藤ハム米久とも27.4億円といよいよ同社の一人勝ちになりつつあります。
 
同社の生産コストが劇的に低下した要因は、完全に説明できるわけではありませんが、無駄のない装置配備を継続的に積み上げてきたことで他社と差別化ができたのが最初です。そして、結果的にシェアが上がって、新たな生産設備を作ると、さらに生産性に差ができて今の状況になったようです。他社は生産量が増えていないので、新規の設備投資もできずに、ますます差が開く状況になっています。
 
そう考えると、当面同社の勢いに衰えは見えず、やがてはトップシェアも視界に入って来るのではないでしょうか。もちろん、これはあくまで加工食品だけの話で、もう一つの事業である食肉事業ではトップの日本ハムが圧倒していますので、会社全体では同社にとってもトップの日本ハムの背中はずっと先にある感じですが。
 
有賀の眼
 
食品業界において過去最も劇的に業界内での位置づけが変わった企業にアサヒビールがあります。1980年代には業界第3位で、しかも後発で4位のサントリーにさえ抜かれそうな状況であったアサヒですが、2001年度にはキリンビールを逆転して国内ビールのシェアトップを獲得します。
 
今やビールは国内だけで論じても仕方がない時代に入っていますが、株式時価総額で見ても現状でアサヒがキリンを若干上回っています。まさに、これは食品業界内の奇跡と言える逆転現象かもしれません。その点で言えば、やがては食肉加工業界における同社のシェアアップも奇跡と呼ばれる時代が来るのではないでしょうか。
 
この大変貌が元をたどれば、工場でのコツコツとした生産性改善の積み上げだったということを考えると、なかなかぴんと来るものではありません。しかし、まさに「虚仮の一念、岩をも通す」ではありませんが、まさかこんな時代が来るとは会社側でも思っていなかったような結果となって、コツコツとした努力は本当に大切なんだと改めて深く思うところです。

 

第84回「食品スーパー、食品流通の縁の下の力持ち」サイバーリンクス前のページ

第86回「大胆なIT人材への投資完了でいよいよ成長期を迎えるか」さくらインターネット次のページ

関連セミナー・商品

  1. 社長のための「お金の授業」定期受講お申込みページ

    セミナー

    社長のための「お金の授業」定期受講お申込みページ

  2. 《最新刊》有賀泰夫の「2024年春からの株式市場の行方と有望企業」

    音声・映像

    《最新刊》有賀泰夫の「2024年春からの株式市場の行方と有望企業」

  3. 《シリーズ最新刊》有賀泰夫「お金の授業 企業の月次データで読む株式投資法」

    音声・映像

    《シリーズ最新刊》有賀泰夫「お金の授業 企業の月次データで読む株式投資法」

関連記事

  1. 第13回 利益重視の遺伝子が躍進を支える「伊藤園」

  2. 第123回「中長期にわたる同社の成長シナリオが本格的にスタート」やまみ

  3. 第54回 ライバルの戦意をそぐほどの徹底したローコスト経営「サイゼリヤ」

最新の経営コラム

  1. 第183回 菊寿司 @福島県相馬市原釜 ~地魚主体の握り

  2. 第七十一話_禁断の組み合わせから地域活性化へ - 和歌山県田辺市のうなぎ販売展の革新的ビジネスモデル

  3. 第179回 米国に制裁されても反米しない華為

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 経済・株式・資産

    第20回 スマホ市場の貢献で、業績が急拡大期入り「サイバーエージェント」
  2. 人間学・古典

    第15人目 「スプルーアンス」
  3. 人事・労務

    第115話 年ごとの最低賃金の上昇を考える
  4. サービス

    第139話 《熊本県山鹿市にある『アピシウス』出身のオーナーパティシエの田園のパ...
  5. 税務・会計

    第1回 P/L(損益計算書)を面積グラフにして、5つの「利益を見える化」してみる...
keyboard_arrow_up