※本コラムは2022年9月の繁栄への着眼点を掲載したものです。
企業の価値は、「将来の利益」を創り出す力で決まる。「そんなのは当たり前だ」という言葉が聞こえてきそうだ。実際に無門塾でいろんな会社を見てきたが、入塾した最初は多くの会社が近視眼的な発想しかない。目の前の売り上げ、目の前のお客様を追うのに必死だ。それも分かる。
デジタル化の波や、お客様の多様化によって、全てが複雑化している。単に「開発」「製造」「販売」では済まなくなってきている。同じモノを大量に作り売っているだけではダメだ。より個々の問題を解決するようなパーソナルなモノが求められたり、そこに色んなモノを複雑に組み合わせないといけなくなってきている。重要なのは、いまではなくて自社の「将来儲かる仕組み」を作ることだ。
愛知県安城市に「はちどり」という会社がある。
旧社名は安城自動車学校という。多角化をするにあたり社名を変更したわけだが、そこには大きな理由がある。「ハチドリのひとしずく」という童話だ。
ある日、森が燃えていた。山火事だ。森の動物たちは我先に逃げ出した。しかし、小さな小さな一羽のハチドリだけが、池の水を小さなくちばしですくっては燃え盛る炎にかけていた。動物たちはそれを見て笑った。「あんなの消せやしない」「何やってんだ」と口々に言ったが、ハチドリはこう答えた。「自分は自分に出来ることをやっているだけだ」はちどりのミッションは、安城市から交通事故をゼロにするということだ。傍から見たら途方もないミッションかもしれない。だからと言って何もしない人たちで世の中は溢れている。それならば自分自身に出来ることを精一杯やった方がいいではないか。
はちどりが定期的に開催している「命のメッセージ展」では、市内で交通事故で亡くなった方々の等身大パネルを自動車学校内に展示している。そこにはご家族からお借りした遺品も展示をしている。自分たちが教える運転というものは、場合によっては凶器にもなり得るということを痛烈に教えているのだ。こういったはちどりの姿勢は地元で評価され、多くの教習生や新卒採用が訪れる。
リーマンショックの時に私がよく言われた言葉だ。
「協会さんは、不景気になると儲かるんでしょ?」というものだ。苦笑いをしながら、「馬鹿を言わないでください」と言ったものだ。日本経営合理化協会を医者に例えていうと、「治療」もするし、「薬」も作る。それ以上に何に力を入れているのかというと、「予防」である。重症患者も勿論診る。切った貼ったの緊急手術もある。
しかし、緊急手術を要する重症患者ばかり来てたらウチは手が回らずに潰れてしまう。だから、会社が永く永く繁栄するように「予防策」を提供しているのだ。永く永く必要とされるように、「強く必要とされる存在になる」という経営理念を掲げていた。
これがいまどきの言葉で言うと、「サステナビリティ経営(持続可能な経営)」になるのではないか。冒頭で述べたが、多くの会社は近視眼的に今日明日のお客様であったり、売り上げを求める。それではいけない。自社の10年後20年後の持続可能性が担保できなければお客様、お取引先様、多くの方々に迷惑が掛かってしまう。社長は、自社の「持続可能な経営」に責任を持たなければならない。
※本コラムは2022年9月の繁栄への着眼点を掲載したものです。