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- 第140話 「平成30年の税制改正の問題点は?その2」
昨年12月に自民党から、税制改正大綱が公表されました。
今回は、事業承継税制(納税猶予)の改正についてご説明します。
私は、一般社団法人と同様に、
納税猶予を使った事業承継対策を勧めていません。
あくまで相続税や贈与税の先送りに過ぎないからです。
ところが、話を聞いていると、税理士から
納税猶予を薦められている方が多くいらっしゃるようです。
そもそもこの制度は、どんな制度でしょうか?
まず、納税猶予を使おうと思えば、
次の4つの条件を満たす必要があります。
①人の条件
・先代経営者は、会社の代表者であり、これまで筆頭株主であったこと
・後継者は、新たに会社の代表者にあり、これから筆頭株主となること
・後継者は3年以上取締役であること
・後継者は、5年間は会社の代表者であり続けること
これは、中小企業であれば、さほど難しくない条件です。
②株式保有条件
・後継者は株式を保有し続けること
たとえば、納税猶予を受けた株式の一部を、
息子に売却した、従業員に売却した、誰かに売却した、
ということだと、その時点で猶予されていた税金を支払うことになります。
要するに、株式はずっと持ち続けている必要がある、ということです。
へたに動かすと、税金を払うはめになります。
③雇用維持の条件
これまでは、納税猶予を使った後の5年間は、
平均で雇用の8割を継続することが義務付けられてきました。
しかし、この条件を満たすことがネックとなり、
これまで、なかなか制度が普及しませんでした。
そこで今回、さらに条件を緩くすることになりました。
具体的には、この5年間は雇用8割という条件が仮に満たせなくても、
経営状況の悪化とか、この他正当な理由があれば、
納税猶予は継続する、ということになりました。
また、業績が悪い、財務体質が悪化している場合、
特例承継期間(5年)が経過すれば、
M&Aで株式を譲渡するとき、会社が合併により消滅するとき、
会社が解散をするときなどには、納税猶予税額を免除することにもなっています。
簡単にいえば、
「会社がひどいときまで、税金はとりませんよ」ということです。
今回、この③の要件が緩和されたことなどもあり、
顧問税理士が、経営者にこの制度を使うことを勧めているようです。
納税猶予を勧める税理士さんは次のように言います。
『納税が猶予された株式を、自分の次の後継者に贈与したときに、
改めて納税猶予の制度を使えば、そのときには自分の納税は、免除されます。』
これで確かにご自分の納税は免除されるかもしれません。
しかし、やはりあくまで猶予なのです。
言い方は悪いですが、
自分の隠れた負債(猶予された税金)を、
自分の息子(次の世代)に先送りするだけなのです。
次の世代からすれば、手放しで喜んではくれないでしょう。
そして、次の世代が納税猶予を使おうとする場合、
政府の方針で、この制度の枠組みが変わっている可能性は、
十分に考えられます。
グループ法人税制、少人数私募債の分離課税、一般社団法人など、
税金を払わせるために、
これまでいくつもの制度が改正されてきました。
納税猶予も、永続的に使える保証はないのです。
いまの目先のことだけにとらわれずに、
納税猶予をしたその先のことを考えれば、
決してこの方法は得策とはいえないのです。
そして最後の要件が、
④担保提供
猶予された税金相当額を担保として提供することが求められるのです。
提供する担保の対象は、不動産、国債・地方債などですが、
不動産、国債等を持っていない会社は、
自社株を税務署に担保として差し出すことになるのです。
わが社の株を税務署に担保として差し出す・・・・
いかがでしょうか?
こうしたことをふまえれば、
・高額退職金を支給して株価を引き下げる
・種類株を活用して、少ない株式でも支配権を承継する
やはり、これがベストな事業承継対策なのです。