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- 賢い社長の「経理財務の見どころ・勘どころ・ツッコミどころ」
- 第11回 セールや値引き販売で注意すべき数字のポイント
新型コロナウイルスの感染拡大がおさまらず、特に中小企業においては業績不振の状況が続いています。
先行きが見通せない中、どこの会社も業績を取り戻そうとして、さまざまな営業活動を展開しています。
このような売上がなかなか伸びない状況の中で行われるのが、セールや値引き販売です。
そこで今回は、セールの開始前、セール期間中、セールの実施後に、社長が見るべき数字のポイントをお伝えします。
御社の今期の売上は前年と比べて、増収ですか、減収ですか?
●セールや値引き販売の目的を明確にする
業績が伸びないときに売上を手っ取り早く稼ぐやり方として、よく行われるのがセールや値引き販売です。
価格の引き下げや期間限定の特典を付けることは、買い手の購買意欲に強く働きかけ、販売促進効果が期待できます。
特に年末年始は稼ぎ時ですので、どこへ行っても「セール」「〇%オフ」の看板が掲げられています。
「複数購入で1つ無料」「〇円以上購入でさらに〇%引き」と、ついで買いを誘います。
最近では、「ポイント〇倍」「キャッシュバック〇円」と値引きの手法も多様化しています。
値引き販売の一番の目的は、売上の増加です。
価格競争により競合相手から新規顧客を獲得することを狙っています。
さらに、既存客に新製品を提供して、利益を増やすことも考えています。
大量に仕入れてしまった商品を売りさばいて、資金を回収する場合もあるでしょう。
御社では、何を目的にセールや値引き販売をしていますか?
●増収減益に注意する
セールや値引き販売によって、一時的に売上は稼げます。
しかしほとんど場合、通常営業よりも粗利益率は下がるので、注意が必要です。
セールの結果、前年同月と比較して、増収減益になることがよくあります。
そこで社長としては、セールや値引き販売をする前に、売上だけでなく、利益や在庫、資金繰りがどうなるのかをあらかじめ見積もっておきます。
何を目的にするのか、何を優先するのかによって、結果が変わってくるからです。
社長の考えを数字で明確にすると、社員の販売活動がはっきりします。
また、セール後の売上の落ち込みも心配です。
一度値下げすると、価格を元に戻しにくくなるからです。
得意先や顧客のほうも、下がった価格を基準にして次の購買を考えます。
したがって、社長はセール時期の単月だけで考えるのではなく、四半期、半期、年間の売上と利益への影響も考えておかなければなりません。
御社の今後3カ月間の売上と利益の予想はどうなっていますか?
●セール実施前に売上、変動費、粗利益の数字を置いてプランを練る
中小企業の場合、毎年恒例の行事のようにセールや値引き販売を実施する会社が少なくありません。
前年と同じやり方をして期待どおりの成果が出ずに、景気のせいにしている会社をよく見ます。
そうならないように、セールや値引き販売を実施する前には、数字を置いて考えるようにします。
もちろん、考えたとおりになるとは限りませんが、考えないでぶっつけ本番でやるのは危険すぎます。
セール前の月の月次決算の数字をベースにして、セールによって、売上、変動費、粗利益(粗利益額と粗利益率)の数字がどのように変動するのかを検討します。
商品ごとの販売価格と販売見込み数を変えながら、何パターンか業績を予測します。
そして、売上と粗利益の増加見込みから、広告宣伝費などの営業コストをどの程度かけられるかを見積もります。
売上、利益、在庫、資金繰りなどのさまざまな数字を動かしながら、複数のプランを検討し実行に移します。
御社では、販売計画を何パターン準備していますか?
●セールでの達成目標値と対処法を決めておく
セール期間中は、毎日または週単位で売上と粗利益の数字を見ながら、目標値の達成状況を確認します。
経理に指示して、目標値との乖離があれば、すぐに報告させます。
このとき、基準値を設定しておき、状況に応じて次のような対処法を決めておくといいでしょう。
・想定以上に売れ行きが好調な場合には、販売費をいくら追加するか?
・どの時点で目標が何%未達の場合に、販売手法をプランBに変更するか?
予想した数字と異なる結果が出ることのほうが、普通です。
ここで簡単にあきらめてしまわずに、すぐに次の手を打ちます。
そのときに慌てずに、数字で冷静に評価しながらやり方を修正したり、プランを変更したりして調整できると、結果がよくなります。
御社では、計画が失敗したときに、すぐに切り替えができていますか?
●セール実施後の数字を次に活かす
セール後は、月次決算を早めに集計し、計画した予算値と実績値を比較して、数字の中身をしっかり検証します。
特に、全社および各事業部の粗利益率の変動を細かく見ます。
値引きにより販売価格が下がると、粗利益率に影響するからです。
業種によっては、粗利益率が1ポイント下がるだけで、営業利益が大きく減ってしまいます。
売上が増えても、予想通りに利益が増えていないときは、その原因をしっかりと数字で分析しておきます。
計画した予算値を部門別や商品別、顧客別に細かく分類して、実績値と照らし合わせながら比較して、差異を検証します。
特に、新規顧客数、既存客単価、粗利益単価などの数字の変化を比較して、対比表にして整理して記録しておきましょう。
これらの貴重な実績値の履歴が、次の販売促進活動に結びつきます。
具体的に何をしたら、何の数字がどのように変化したのか?
何もしなかったら、どの数字に影響が出たのか?
社長と社員が、数字を見ながら考え、改善し続けることにより、会社が成長していきます。
御社ではセールの数字を、次にどう活かしていますか?