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人事・労務

第44話 退職後の就業制限は可能でしょうか

「賃金の誤解」

 ある中堅企業での話です。

 わが社で育てた33歳の生抜き中堅社員の事なのです。営業担当としての折衝力と商品知識を高く評価されている彼を営業のエースとして育てよう、先を見据えての人材育成を考えていたのですが、意に反して、期待の彼が辞表を提出してきました。
 上司は何とか思いとどまるように説得に努めたのですが、辞意は固く、撤回させることはできませんでした。
 しかし彼がわが社で身につけた仕事力と人脈を同業他社で活かし、活躍されたのでは損害が大き過ぎる。退職後の就業をなんとか制限することはできないか。退職後1年位は会社の営業区域内での競合会社への就業を禁止しようというのが経営陣の意向でした。

 幸いわが社の就業規則には以下のような条文があります。

第○条 退職後1年以内に会社の業務区域において、同種ないし類似の業務を行い、または同業他社に就業してはならない。

 この条文を根拠に就業を制限できる可能性があるのでしょうか。

 この社員の場合、実力社員とは言っても経営に関わる重要な地位にいたわけではありません。結論としては、就業規則に定められていても強要は無理と言えます。
それでも競合他社への就職を制限したいと言うことになれば、退職にあたっての条件提示が必要であり、双方納得の上で誓約書を取り交わすことが必要となります。

 ①退職後○年以内
 ②業務区域
 ③特約を締結

 退職社員の自由な職業選択に規制をかけるわけですから、それなりの特約が必要となることは覚悟しなければなりません。
 最終的に裁判になったケースでは、この「代償措置の有無」が、大きな争点となっています。例えば、特約としての退職金の割増を受給したにも関わらず、競業避止義務に違反した場合には、退職金の減額、損害賠償の請求、競業行為の差し止め請求等が可能です。
  しかし、そうした裁判まで覚悟しての特約となれば、それなりの価値を認められた重要人物の退職後○年の保障額ですから相当大きな金額となる筈であり、実際には困難な話でしょう。

 企業に比べれば弱い立場の労働者の「職業選択の自由」は憲法で守られているわけであり、そのような退職に伴うトラブルは避けたいところでです。そのためには、上司と部下が常日頃から相互理解を深め、将来を託すに値する社員の処遇については、公正な評価と納得の上で、活躍の場をタイムリーに提供すると同時に、10年後、20年後の自身の将来が描ける完成度の高い賃金制度が導入され正しく運用されていることが必要なことは言うまでもありません。

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