コロナショックが始まり、かれこれ1年半以上が経っています。
ワクチンも普及して、ようやく収束する気配が見えてきました。
これからは、アフターコロナの流れが本格化してゆくでしょう。
私たちとしても、将来に向けて動かなくてはいけません。
コロナで体力のある会社と厳しい会社の差が益々はっきりしてきました。
今後は、M&A、不動産物件が出回り、
業績のよいところには、「買ってくれ」と
各方面から声がかかってくると予想しています。
私たちICOグループにも、そういったご相談が多く寄せられ、
M&Aも年間で一定件数お手伝いしています。
ここで、M&Aの際に、中小企業が陥りやすいワナということで
岸田工業(仮)のM&Aについて、お話しましょう。
岸田工業(仮)の岸田一郎社長(仮)は、創業者である父親から
事業を承継した2代目社長、年齢は50歳です。
父親は、5年ほど前に他界しています。
この岸田社長からM&Aで買いたい会社がある、
ということで、相談を受けました。それが金子工業(仮)です。
金子工業の金子太郎社長(仮)は、75歳。
岸田社長の父と仕事の関係で知り合って以来、懇意にしてきました。
岸田社長の父が亡くなってからも、
岸田工業と金子工業には、一定の取引関係が残っており、
お互いがよく知る関係にありました。
金子社長には、娘さんしかいないこともあり、
話の流れで、岸田社長に「うちの会社(金子工業)を買ってくれないか?」
と打診したのが、事の始まりでした。
岸田社長も、今後の事業展開を考えると、
金子工業を手に入れたいと強く思うようになり、
まさに、渡りに船の提案だったのです。
本来であれば、売手(金子工業)から声をかけているので、
立場的には買手(岸田工業)が優位のように思えますが、
金子社長より、岸田社長のほうが2回りほど若く、
かつ、金子社長は我が強いところもあり、
どちらかといえば、売手(金子工業)優勢で、話が進められていたのでした。
私が、一番違和感を覚えたのは、
M&Aには欠かせないデューデリジェンス(買収監査)のやり方でした。
デューデリジェンスは、売手の決算書を公認会計士がチェックして、
M&Aの適正価格を計算してもらう、という作業です。
通常、デューデリジェンスは、
買手が買手の費用で、売手の決算書を精査、調査します。
ところが、今回は、
売手である金子社長が、自ら銀行にお願いして、
金子工業の費用でデューデリジェンスを実施したのでした。
デューデリジェンスする公認会計士も、
売手からお金を頂いている以上、
ある程度、売手の意向に沿う形(つまり、あまり掘り下げない)で、
監査を進めることになります。
本来とは異なる形で、デューデリジェンスを進め、それも何とか終わりました。
デューデリジェンスの結果、総額3億円でM&Aをすると決まり、
買収資金の調達についても、銀行に入ってもらい、諸々調整が進みました。
来月には契約を、という最後の段階になり、
M&Aの売買契約書を作成するところまできました。
M&Aの契約書というのは、通常の株式の売買契約とは異なり、
「表明保証」といって、買手、売手に色々なことを“誓います”といって、
契約書上で宣誓してもらったうえで、売買することになります。
例えば、契約書に、
「一切の粉飾はしていません」
「労働問題は発生していません」
「取引先とのトラブル/訴訟はありません」
などなど、主に買手が、売手に対して気になることを、
文章にしたうえで、「そういった問題はありません」
ということを書面上で表現して、サインをもらうのです。
もし、宣誓したことが、あとあとウソだった、
ということであれば、賠償問題になるように、契約書を仕込むのです。
特に、売手は、不都合な真実を隠しがちなので、
売手にはいろいろなことを宣誓してもらうのです。
そのなかで、
「事業のうえで、必要な許認可は全て取っています」
という文言がありました。
M&Aの話がスタートした当初、
買手である岸田社長は、売手である金子社長から、
「許認可関係は特に問題ない」と口頭で聞いていました。
このため、岸田社長もその言葉を信頼し、
「金子工業がようやく手に入るなぁ」と今後の展開に思いを巡らせていました。
最後のこの段階では、口頭ではなく、
書面にして宣誓してもらう(捺印してもらう)
もし嘘をついていたら賠償してもらう、
というプロセスが必要になります。
すると、実は、金子工業は、
工場建物全体の建築申請を取っていなかった、
ということが発覚したのです。
「そんなことは、聞いていない。まさか・・・」
岸田社長は、土壇場で買収を撤回せざるを得ませんでした。
これまで、たくさんの時間、費用、エネルギーをかけて
準備してきた双方でしたが、何とも残念な結果になってしまいました。
売手の金子社長からすると、
「土壇場で話をひっくり返しやがって!
最初から、この申請は取っていない、と伝えていたのに!」
と、こうなると、「言った、言わない」の水掛け論となり、
お互い、それぞれに対する印象が、
これまでと180度変わって、関係性にも亀裂が入ってしまい、
修復不可能なものとなってしまいました。
最初から然るべき第三者の専門家を入れていれば、
土壇場でひっくり返らずに、もっと早い段階で破談していたでしょう。
今回は、仲介人もいれずに、お互いが「まぁまぁ」ということで、
話を進めてしまい、結果的には、大きなロスとなってしまったのです。
M&Aを実行する場合は、最初から専門家に相談をすべきなのです。
費用をケチると、ろくなことがありません。