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製造業

第294号 両手を同時に使う

柿内幸夫─社長のための現場改善

 今回も私の著書「改善の急所101項」から1項を紹介し、実例を挙げて解説します。  

 【急所4】両手を同時に使う。(22頁)

 先回に引き続き今回も動作経済の4原則についてお話しします。
 
 《動作経済の4原則》
・距離を短くする。
・両手を同時に使う。
・動作の数を減らす。
・楽にする。
 
 今回は、二つ目の「両手を同時に使う」をご説明いたします。
 
 動作経済の4原則における「両手を同時に使う」は、両方の手が同時に付加価値を生むような条件を作り、実行することです。
 
 4原則なんて大げさに言わなくても、両手はいつも同時に使っていると思っておられる方は多いと思います。例えば右利きの人がご飯を食べるとき、左手に茶わんを、右手に箸を持っていますから、両手を同時に使っていると思われます。
 
 しかし、左手で持った茶わんはほぼ定位置で支えられているのですから、もしちょうどいい位置にある台に固定されていれば左手は使わないで済み、箸を持った右手だけでご飯が食べられます。
 
 すなわち、この場合の左手は台の役割ということで付加価値を生んでおらず、お箸を持つ右手だけが付加価値を生んでいると考えます。
 
 「動作経済の4原則」に従うと、普通にご飯を食べる動作は、両手を同時に使っていないということになります。では、両手が同時に付加価値を生み出す動作とは、一体どんなものなのでしょうか? 
 
 工場の仕事を思い浮かべて、両手同時作業を見つけてみましょう。いかがでしょうか、思い浮かびましたか? 
 
 いざ考えてみると意外と難しいのではないでしょうか。
 
 もう20年以上前、新米コンサルタントであった私が食品メーカーのY社で改善指導をしていた時のことです。
 
 パックに詰められた製品がコンベアーで流れてくるのを一つ一つ手で取って、裏側と表側の外観目視検査をして、段ボール箱に詰めるという作業がありました。
 
 コンベアーは全部で4本あり、各ラインに一人ずつ合計4人の人が作業をしていました。全員が流れてくる製品をひとつ左手で取り、右手に持ち替えながら、両面を検査して段ボールに入れるというやり方でした。
 
 皆さんは作業に慣れていたのでラインスピードに合わせて作業ができていましたが、何ともあわただしい感じで、もう少しゆとりを持って仕事をしてほしいなあと思いました。
 
 そこで私は、4人の方に動作経済の4原則の話をして、両手を使って左右の手で流れてくる製品を一つづつ取って、同時に検査をすることができないだろうかと提案しました。その方が早いに決まっていると思ったからです。
 
 ところが、実際にやってもらうと、流れてくる二つの製品を左右の手で一つづつきちんと取ることは簡単でなく、取れたとしても持ち替えしないで両面を見るということはさらに難しく、とてもできそうもない様子でした。
 
 私は無理なことを言ってしまったと思い、とても恥ずかしく申し訳ない気持ちになり、それ以上のお願いはせず、また元の片手動作に戻してもらいました。
 
 コンサルタントになってまだ経験も浅かったため、思いっきり凹んだものでした。
 
 しかしその一月後、再びY社のその現場に行った私は、腰を抜かすほど驚きました。4人全員がリズミカルな両手同時動作で、楽々仕事をこなしていたのです。
 
 その時リーダーだったMさんが、「たくさん練習したんですよ。でも本当に楽になりました。両手同時動作を教えて下さって、ありがとうございました」と言ってくださいました。
 
 「お礼を言うのは私です、Mさん本当にありがとうございました。」と返事をしたと思います。
 
 ところで、私は今、ワープロでこの文章を書いています。両手をキーボードにのせて文字を書いているのですが、改めて自分の手の動きを観察してみると、両手を同時に使って付加価値を生んでいることが分かります。
 
 昔、タイピングソフトを使って、かなり練習をしたことを思い出しました。
 
 すなわち、両手同時動作は自然にできるということではなく、意識して訓練する必要があるものであるのです。しかしできると確実に生産性が上がり楽になります。
 
 どうぞ現場の作業を観察して、動作経済の4原則をたくさん導入してください。
 
 
 
 
 
 

294.jpg

copyright ゆきち先生 http://yukichisensei.com/

 

※柿内先生に質問のある方は、なんでも結構ですので下記にお寄せください。etsuko@jmca.net 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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