★インサイトの力で18万部突破!話題の言語化本
数ある言語化本の中でも、今回特に注目したいのは、ひときわ鋭いインサイトを言語化した一冊です。直近のベストセラーで、文芸評論家の三宅香帆さんによる『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』(ディスカヴァー携書)。
2024年7月31日の発売からわずか7か月で18万部を突破し、全国主要書店の新書ランキングで1位を獲得するなど、大きな話題を呼んでいます。
この本は、アイドルや宝塚を愛する著者が、書評家としての文章技術を活かし、「感動した」「おもしろかった」といった感情を、うまく言葉にできないという悩みに応える一冊です。
SNS投稿、ブログ、ファンレター、友人とのおしゃべり、音声配信など、さまざまな場面で活用できる「好き」を言語化するコツを具体的に解説しています。特に、「好きなものの魅力を伝えたいけれど、うまく言葉にできない」というモヤモヤを抱える読者から圧倒的な支持を集めています。
発売から7ヶ月経った今も、SNSでは感想が次々と投稿され、「まさに私のことだ!」といった声が多く見られます。こうした共感がさらなる売上につながり、ヒットが続いています。
では、この本はどのようにして人々の心を捉え、共感をつかみ、ここまでのヒットに至ったのでしょうか? そこには、読者がこれまで言葉にできなかった“隠れたホンネ=インサイト”を見抜く力がありました。
★『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』が捉えた人を動かす”隠れたホンネ”とは
本書の成功要因は、読者が言語化できていなかった“隠れたホンネ”を鋭く捉え、それを的確に表現したことにあると考えられます。
世の中の推しを持つ人の多くは、「自分がこんなに推しを素晴らしいと思っているのに、なんでみんなは推しの魅力をわかってくれないんだろう?」と思っても、「まあ、人はそれぞれ趣味が違うから、趣味が違えばわからないのは当然か」で終わりがちです。
しかし、三宅氏はそこに対して「それは推しの素晴らしさをうまくあなたが言語化できていないのである」と、まさに言語化しました。
「推しの素晴らしさを言語化したい」という欲求は、非常に優れた隠れたホンネ(インサイト)だと考えられます。これは、多くの推しを持つ人にとって、おそらく自分自身で自覚できていなかった欲望だったのではないでしょうか。
実際、「推しの素晴らしさが伝わらないのは、自分がうまく言語化できていないからだ」という気付きを、三宅氏の本を見て初めて自覚した人も多いはずです。
このように、三宅氏は、「推しの素晴らしさを言語化したいのに、うまく言葉にできない」という隠れたホンネを言語化しました。これが読者にとっての気づきとなり、共感を呼び起こしたのです。
三宅氏が捉えたような人を動かす”隠れたホンネ”、つまりインサイトを見つける作業を、飛躍的に効率化できる方法があります。それは、2024年11月に発売したばかりの拙著『センスのよい考えには、「型」がある ~感覚を言語化するインサイト思考~』にて紹介している以下の「逆説モデル」という思考の型に当てはめるだけです。
逆説モデル
・ みんな/世の中は、○○だと思っているかもしれないけれど、
・ 実は/本当は、■■ではないか?(←ここがインサイト)と自分は思う。
・ なぜなら△△だから
『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』をその型にあてはめると、次のようになります。
逆説モデル
・ みんな/世の中は、(なんで推しの魅力をみんなわからないんだろう?)人はそれぞれ趣味が違うから、わからないのは当然だと思っているかもしれないけれど、
・ 実は/本当は、推しの素晴らしさを伝えたいのに、うまく言葉にできないのではないか?(←ここがインサイト)と自分は思う。
・ なぜなら実際に、「やばい!」「すごい!」しか出てこず、推しを知らない人に伝わる言葉にできないから
このように、読者が漠然と抱えていた違和感を明確な言葉に言語化したことで、多くの人に刺さる一冊となったのです。
★言語化されていないホンネを捉えることが突破口になる
『「好き」を言語化する技術』のように、人々が無意識のうちに感じている“隠れたホンネ”を発見し、それを言葉にすることができれば、「これだ!」という共感を生み、人を動かすことができます。本のヒットだけでなく、売れる商品やサービスの開発においても、同じ考え方が応用できるのです。
私は広告会社・電通で長年、マーケティングの仕事に携わってきました。特に、「売れない」「売れなくなった」商品をどうにかするための戦略を考える場面に何度も立ち会ってきました。その戦略に基づいて、人々に商品を買ってもらうための方法や広告の出し方が決まっていくのです。
クライアントから寄せられる相談の多くは、「これまでの手法が通用しなくなった」「新しいアプローチが必要だ」という切実なものです。ロジカルに情報を集めて考えるだけでは解決できないという難題に直面することも何度もありました。
こうした状況で重要だったのが、「インサイト」を使って、一気に問題を解決できる突破口を見つけ出すことでした。そんな電通のマーケターが現場で実践しているマーケティングのプロセスの中で、心臓部と言っても差し支えないのが、「インサイト思考」です。
優れたマーケターや企画者たちは、この「インサイト」を見つける力を活用しています。それは特別な才能ではなく、再現可能な思考プロセスによって誰でも身につけられるスキルです。
そして、そのインサイトをもとにしたアイデアは、行き詰まった現状を突破し、少ない力でより大きな成果を生み出す力を持っているのです。
阿佐見綾香(あさみあやか)
株式会社電通 第4マーケティング局マーケティング・コンサルタント
埼玉県さいたま市浦和出身。早稲田大学卒業後、2009年、株式会社電通に入社。以来、数多くの企業のマーケティング、経営戦略、事業・商品開発、リサーチ、企画プランニングに従事。担当した業種は化粧品・アパレル・家庭用品・食品・飲料・自動車・家電など。大手企業だけでなく、ベンチャー・中小企業も担当するなど、幅広い業種・規模の企業を手掛ける。著書に、累計2万部越えのベストセラーとなった『電通現役戦略プランナーの ヒットをつくる「調べ方」の教科書 あなたの商品がもっと売れるマーケティングリサーチ術』(PHP研究所)、共著に、『センスの良い考えには、「型」がある 感覚を言語化するインサイト思考』(サンマーク出版) がある。
ビジネス見聞録WEB4月号 目次
・p1 収録の現場から 〈妹尾輝男「実践エグゼクティブ・コーチング」音声講座〉
・p2 講師インタビュー【増収・増益・増“元気”!数字を社長の武器にする経営】田中靖浩
・p3 今月のビジネスキーワード「人的資本経営」
・p4 令和女子の消費とトレンド「ベストセラーが生まれる理由とは? ヒットの裏にある『人を動かす隠れたホンネ』」
・p5 展示会の見せ方・次の見どころ
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