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逆転の発想(18) 熱血指導だけでは名門チームは蘇らない(プロ野球監督・星野仙一)

指導者たる者かくあるべし

 優勝請負人の技
 80年を超える日本プロ野球の歴史の中で、戦前、戦後を通じて複数球団を優勝に導いた監督は10人しかいない。さらに3球団で優勝した監督となると、知将・三原脩(巨人、西鉄、大洋)、前回取り上げた西本幸雄(大毎、阪急、近鉄)と星野仙一(中日、阪神、楽天)の3人だけだ。いわゆる優勝請負人だ。
 
 星野は、中日のエース時代から闘志むき出しで打者に向かっていく熱血漢だった。その星野が古巣の中日監督として二度の優勝を果たし、請われて阪神監督に就任したのは、2001年オフのこと。チームは4年連続でセ・リーグ最下位に甘んじていた。
 
 関西の名門チームとして、東の巨人と人気を二分する阪神は、勝っても負けても甲子園球場にはファンが押しかける。その甘えが、選手個々人を蝕んでいた。
 
 星野は、直前監督の野村克也と自分の指導ポリシーについて、著書でこう書いている。
 
 〈野村さんは阪神での3年間、「弱者が強者に勝つ野球」というもの(データ重視の考える野球)を標榜されていたそうだが、私の場合は「弱者を強者にする野球」だ〉
 
 さて、そのお手並は。
 
 組織強化の五原則
 星野は、技術指導以前に、負け犬根性を払拭する精神論を叩き込んだ。「まず勝つために手を抜くな」。ベンチに控える監督の鬼の形相におびえて、チームは一変した。開幕7連勝でスタートダッシュは目を見張るものがあったが、故障者が相次ぎ失速、4位に終わった。「ここから出直します」。最終戦後のグラウンドで選手たちを整列させてファンに誓った星野は、戦力強化に着手した、
 
 二軍を中心に24人をリストラし、大胆なトレードで、広島から強打者の金本知憲、日本ハムから中継ぎの左腕、下柳剛を手に入れた。下柳はその気性を見抜いて先発の柱に抜擢した。
 
 組織強化の基本は、外からの即戦力の導入にある。星野は組織強化のための選手の選択と獲得に関して、五つの原則を自らに課した。
 
 ①  カネで釣るマネーゲームはしない
 
 ②  (複数チームを)両天秤にかける選手は獲らない
 
 ③  (勧誘にあたって)口先だけの巧いことは言わない
 
 ④  (チーム強化のための)同志的な共感、心意気を大事にする
 
 ⑤  情実を振り回さない
 
 助っ人外人の主砲の獲得合戦でも、某球団が、高額の年俸をエサに獲得に乗り出すと、手を引いた。一方で、金本がF A宣言をすると、「一緒に阪神を強くするためにやってみないか」と声をかける。金本は乗る。獲得する。獲得した選手は、それぞれに大活躍し、若手に大きな刺激を与えることになる。
 
 監督就任2年目の2003年、星野阪神はチーム一丸となり、二位以下に大差をつけて独走優勝する。18年ぶりのリーグ制覇だった。
 
 減点主義より得点主義の組織管理
「私のリーダー論はシンプルだ」と星野は言う。「監督として大事にしたことは、二点に尽きる」と。
 
 〈人間としての基本の厳守と徹底〉と、
 
 〈減点主義をとらず、得点主義をとる〉
 
 前者については、こうだ。命令されたことや約束したこと、決まりごとを守れない選手には、容赦なく叱る。カミナリ親爺となって怒鳴りつけ基本を徹底させる。
 
 後者については、まさに日本社会の悪い癖をついている。
 
 日本社会というのは、ともすれば、成功よりも失敗を問題視し、人を評価する。なんら貢献しなくても、目立った失敗のない人間が人事考課で評価され出世しがちである。そういう組織、社会では、失敗しないためにはあえて新しいことに挑戦しなくなる。上司に従順なイエスマンがはびこり、組織の活力が失われていく。世間を仰天させるような“とんでもない発想”は生まれない。とんでもない発想を英語ではエンタープライズといい、翻訳すれば「企業」であり、「進取の精神」なのだ。
 
〈わたしはカミナリ親爺ではあるけれど、人を押さえつけたり、潰していく独裁親爺なんかではない〉
 
 なかなか面白いオヤジだ。
 
 
(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
 
 
※参考文献
『夢 命を懸けたV達成への647日』星野仙一著 角川書店
『プロ野球、心をつかむ!監督術』永谷脩著 朝日新書

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