なぜ、金融機関をはじめ、第三者は、中小企業のバランスシートを重視するかといえば、それは、バランスシートで、社長や会社が誰と付き合っているかが分かるためです。
付き合う人により、支出の仕方が異なってきます。そして、支出の仕方が悪ければ、資金は減少していきます。
◆売上に直結しない支出を洗い出す
中小企業は誰も守ってくれません。ですから、中小企業は自らを守りぬかなければなりません。
会社がおかしくなる要因として、売上減少、売掛金増加がありますが、収益や収入以外に、支出のしかたが悪ければ簡単におかしくなります。
言い換えれば、売上に直結しない支出があればあるほど会社はおかしくなっていきます。
売上に直結しない支出には何があるでしょうか。最たるものは税金でしょう。一度、洗い出してみてはいかがでしょうか。
経理も請求書が来たからと言って、支払うのではなく、本当にこの支出は、売上に直結しているのかを常に考える癖をつけなければ、経営を管理する意味での経理ではありません。
ちなみにバランスシートを見ますと支出の仕方がよく分かりますが、その中でも「仮払金」「貸付金」「投資」の3つの勘定科目の存在を確認すべきです。この3つは、売上に直結しない支出の典型例です。もちろん、必ずしもこの勘定科目名にこだわる必要はなく、これに類する例えば、立替金、その他流動資産、出資金なども同じことです。
◆支出の考え方が違う
お金持ちは、意味のない支出はしないものです。意味のない支出の中には、これからお話します「自分の意思に反する支出」も入ります。
今、毎月100万円の収入があるとしましょう。
この100万円全額を自分の意思で使うことが出来るならば、とても幸せに感じられることでしょう。幸せの度合いは、収入金額の多寡以上に、自分の意思で使える割合で測れると言ってもいいくらいです。
単純に、100万円の収入のうち、自分の意思で使用できる割合が70%の人と、50%の人では、70%の人の方が、心豊かな生活をおくっています。
だから、結婚しない人や自宅に居座っている人が多いのかも知れません。
夫婦や恋人の間で価値観が違ってきたということがありますが、具体的には支出の仕方に違いがあることで価値観の違いは分かります。
私自身、個人的には、交通費、電気料金そして税金が「自分の意思に反する支出」になります。子供の教育費は「自分の意思に反する支出」ではありません。
今の社会生活の中で、自分の意思に反する支出には何があるでしょうか。
やはり税金でしょうか。
税金は、稼いでもかかり(所得税、法人税)、使ってもかかり(消費税)、モノを買ってもかかり(固定資産取得税)、モノを持ってもかかり(固定資産税)、人にあげてもかかり(贈与税)、死んでもかかります(相続税)。
まともにやっていては、財産を残すことは不可能です。だからお金持ちは税金の勉強をかなりしています。死活問題ですから当然と言えば当然です。
中には脱税に手を染めてしまう人もいますが、もちろんこれは犯罪なのでだめです。
◆お金を支出する節税はお金を失う
ちなみに、節税もあまりすすめられません。なぜかと言いますと、節税のために、お金を支出し、かえってお金を失っているからです。
例えば、保険などの節税商品を購入して納税金額を減らすことがありますが、正直、もう少し考えた方がいいかと思います。
利益が1000円計上されている場合を考えて見ましょう。
簡単にするため、税率を50%としますと500円が税金です。そこで500円の節税商品を購入し、この500円が全額、費用、税の世界では損金と言いますが、これが損金になれば、利益は500円になり、税金は、250円になります。
確かに税金だけ見れば、税額は減少していますので節税は成功です。しかし、支出総額が750円となっており、余計に支出しています。
節税した方が余分にお金を支払っているのです。これでは節税して税金が安くなったからと言って手放しで喜べるはずがありません。
本来、節税と言うのは、お金を一円も支払わずに、税率を下げ、税額を減額することを言います。
ちなみに保険は、節税ではなく、経営に必要だから加入する必要経費のはずです。
さて、自分の意思に反して支出しているものですが、税金以外に健康保険料や年金などもあります。税金と保険料で通常、収入の30%程度です。もちろん、累進課税の日本では、高所得の人は最高税率で40%になりますので、この時点で、50%程度が自分の意思に反する支出になっています。さらに、追い打ちをかけるものとして、公共料金(電気、ガス、水道・・・)、交通費(運賃、高速道路等) などもあります。
内容はともかく、自分の意思に反する支出の割合が高くなりますと、かなり心理的に影響してくることは確かです。
お金持ちの人の中にも幸せではない人もいるようです。このような人のほとんどは、自分の意思に反する支出がかなり多くなっているのです。
これに対して、お金持ちであり、かつ幸せな人は、自分の意思に反する支出を出来る限り抑える傾向があるようです。
支出のあり方は、お金を失わない為にも、ぜひ、考えておきたいことです。
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「会社と個人の資産管理」 2014年8月6日