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逆転の発想(9) 圧倒的敵に立ち向かうリーダーの決断(曹操、織田信長)

指導者たる者かくあるべし

 官渡(かんと)の戦い
 後漢末期の混乱が続く三国時代の中国で、魏の曹操(そうそう)を覇権争いのトップに押し上げたのは、後漢の宮室を牛耳り圧倒的勢力を持つ袁紹(えんしょう)を少数兵力で打ち破った官渡の戦いであった。勝敗を分けたのは、両将の人間力の差である。
 
 西暦で言うと200年、曹操軍1万に、袁紹は10万の全兵力を挙げて攻めかかった。
 
 戦いには前段がある。当時は曹操の配下にあった劉備(のちに蜀の皇帝)が裏切って自立の動きを見せた。曹操は兵力を率い東に向けて劉備討伐の軍を起こす。曹操が拠点である許の都を留守にしたのを見て、袁紹のブレーンの田豊(でんほう)は、「今が許を攻める好機なり」と進言するが、袁紹は子の病気が気がかりで、動かなかった。
 
 そして、曹操が劉備を蹴散らして都に戻った後、袁紹は曹操攻めを号令する。しかも全兵力を投入して黄河を南に越えての遠征である。
 
 今度は田豊、これを諫める。「いまや敵の備えは万全で簡単には城を抜けない。しかし、兵力差に加えて、敵は兵糧が乏しい。ここはじわりじわりと長期戦で臨むべきです。全兵力を投入してはもしもの際の撤退もかないません」
 
 うるさい奴だ、と袁紹は田豊を牢獄に閉じ込めて出陣してしまう。
 
 ブレーンの知恵を生かせなくては宝の持ち腐れ
 袁紹は勢力を拡大する過程で打ち負かしたライバルのブレーン、将軍たちを次々と抱え込み、人材は多士済々である。しかし、自分に自信があるあまり、忠告を嫌う。これに飽き足らず寝返る幹部が続出した。
 
 対するに、小説などによって〝暴れん坊将軍〟イメージが定着している曹操だが、部下に細やかな心配りを見せるリーダーだ。敵から寝返りあるいは捕らえた将軍、参謀たちを厚く遇する。そして敵情に関する的確な情報を入手していた。
 
 都を留守にして劉備討伐に出たのも、袁紹の優柔不断で軍師の意見を聞かない性格を見抜いていたからだ。出陣に際して、「あいつは機を見るに敏ではない。留守中に攻撃してくることはない」と言い残している。この予言には情報という根拠があるのだ。
 
 戦線が膠着して長期戦の様相となると曹操も弱気になった。兵糧も乏しくなった。都に残る参謀の荀彧(じゅんいく)に伝令を出し、「ここは一度、撤退して立て直す」と伝える。荀彧は、「なりません、ここが我慢のし時、いまに敵に動きが出ます」と返す。曹操にはこれを聞き入れ踏みとどまる度量があった。
 
 そして寝返ってきた敵の有力参謀を高待遇でもてなし、決定的な情報を得る。「袁紹軍は、大量の兵糧を烏巣(うそう)の地に集積しているが、そこを守るのは凡将だ」。
 
 曹操は5,000の精鋭を率いて烏巣を攻め落として敵の兵糧を断ち、8万の兵を殺戮する大勝利をあげた。命からがら逃げ戻った袁紹は、獄に繋いでいた田豊を引き出し、「お前の意見を聞かなかったばかりに俺は恥をかいた」と八つ当たりで処刑した。
 
 いくら多くのブレーンを抱えていても、その意見を聴く確かな耳を持っていなくては宝の持ち腐れだ。こんな男に天下は取れない。
 
 桶狭間の突撃
 かたや日本の戦国時代。織田信長は、尾張南部から信長勢力の排除を狙う駿河・今川義元の大軍から攻め込まれる。今川軍2万の兵を3,000の少兵で迎え撃つこととなった。わが国の官渡の戦いともいえる桶狭間の合戦だ。
 
 信長は「城で籠もっていれば、いずれ圧倒的兵力の今川に滅ぼされる」と、決然と六騎の精鋭だけを引き連れて馬に鞭を入れた。籠城戦を覚悟していた軍勢は、信長の決断の気迫に押され、「遅れじ」と後を追う。リーダーに迷いがなければ、部下は運命共同体としてより強固に結束するという人間心理を知る信長は決戦を前に実践して見せた。
 
 先鋒の砦合戦で今川方は圧勝する。「義元は勝った思い気が緩む」。義元は公家気質で、野戦に長けた将ではない。敵将の性格を見抜いた信長の読み通り、義元以下の今川軍は、狭隘な桶狭間で、呑気に勝利の宴を開いているとの情報も信長の耳には入っていた。情報網を張りめぐらせていたのだ。勝手知ったる地元の地形、さらに突然の豪雨に乗じて信長は一気に本陣を急襲し、義元の首級を挙げた。
 
 ここから信長の天下取りは始まるのである。
 
 曹操と信長、少数で大軍勢を破った二人に共通するのは、卓越した人間洞察力と情報掌握力だった。
 
 
(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
 
 
※参考文献
『三國志 魏書』陳寿著 裴松之注 中華書局
『読切り三国志』伊波律子著 ちくま文庫
『三国志きらめく群像』高島俊男著 筑摩書房
『信長公記』太田牛一著 中川太古訳 新人物文庫
 

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