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故事成語に学ぶ(43)  将に五危あり

指導者たる者かくあるべし

 リーダーへの五つの戒め
 『孫子』は、〈将に五危あり〉として、将帥(リーダー)が陥ってはならない五つの危険を挙げている。その五つとはー。
 
 ①〈必死は殺される〉(決死の勇気だけでは命を失う)
 ②〈必生は虜にされる〉(勇気に欠けて命を惜しみ生き延びようとする者は敵に捕まる)
 ③〈忿速(ふんそく)は侮られる〉(怒りっぽく短気な者は敵に侮られて計略にひっかかる)
 ④〈潔廉(けつれん)は辱められる〉(名誉にこだわり清廉潔癖な者はわなに陥る)
 ⑤〈愛民はわずらわさる〉(人情深く部下をいたわる者は苦労が絶えない)
 
 よく考えると、「必死」「必生」「忿速」「潔廉」「愛民」は、それぞれリーダーが備えるべき必須の徳目のように思われる。ところが、それは危険だという。
 〈軍を滅亡させ将帥自らを敗死させる原因は、必ずこの五つのうちにある〉と結論づけている。どういうことだろうか。
 
 極端は身を滅ぼす
 あなたが、こうしたリーダーの下で働くと想定してみるとわかりよいかもしれない。ワンマン型リーダーの怒涛のような行動力と即決の決断力(忿速)は、頼もしくはあるが、ああせえ、こうせえと怒鳴り散らされるばかりではちょっと辛い。状況次第だ。ついて行ったはいいが、引き返せない窮地に追い込まれたのでは泣くに泣けない。
 孔子先生のような徳のある人格も上司として平時にはうれしいが、有事には頼りなく感じるだろう。思いやりある社長の元では仕事はしよいが、「それだけではねえ」。物足りない。
 この警句が、臨機応変の対応の重要性を説く「九変篇」にあることを考えると、「極端はよくない。リーダーにはバランスのとれた人格が求められる」ということを、あえて徳目を否定することで強調していると読める。
 戦場では決死の勇気も、その裏返しの生き延びる知恵も必要だが、それも時と場合で臨機応変であるべきだ、というのが趣旨なのだ。
 
 『孫子』の人格バランス論を読み誤るな
 こうした論法は、『孫子』のそこかしこに散りばめられている。よくある孫子の講座で学んだある篇のある句を金科玉条のように丸暗記するのは、よくない読み方だ。全体を通して見ないと読み誤ることになる。
 孫子の冒頭「形篇」にある、リーダーの備えるべき人格の基本を書いた有名な以下の句も同じだ。
 「将は、智・信・仁・勇・厳なり」。智=物事を明察できる智力、信=部下からの信頼、仁=部下への思いやり、勇=困難にくじけない勇気、厳=軍律の厳格さーーの五つの徳だ。「よし、これだ」と丸暗記しても意味がない。 
 江戸時代の孫子読みの達人、荻生徂徠(おぎゅう・そらい)は、「それはそうだが」と、こんな疑問を投げかけている。
 〈おおよそ智ある人は勇ならず、勇ある人は智ならず、仁なれば厳ならず、厳なれば仁ならず、四つの徳備わりても信また備わり難し〉(智と勇とは矛盾し、仁と厳は相容れない。ましてや、これらの四つの徳を持ち合わせた人物が、部下の信頼を得るのは困難だ)。
 要はバランス、そして状況に応じた臨機応変の対応こそ、『孫子』がリーダーに求めている人格なのだ。
 完璧な人格などあり得ない。筆者はそう読む。
 
 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
 
※参考文献
『孫子』金谷治訳注 岩波文庫
『孫子』浅野裕一著 講談社学術文庫
『孫子國字解』荻生徂徠講述 国立国会図書館デジタルコレクション

 

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