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危機を乗り越える知恵(20) 忘れ去られた教訓

指導者たる者かくあるべし

 雪印乳業が脱脂粉乳による集団食中毒事件を乗り越えてから45年経った2000年6月27日、同社大阪工場製造の低脂肪乳を飲んだ子供が下痢と嘔吐の症状を訴え、病院から大阪市に通報があった。
 
 これが事件の始まりである。
 
 翌日には発症者の届け出が増え、市は製造自粛と製品の回収を指導した。
 
 しかし、雪印側は「うちが原因と決まったわけでない。うちに限ってそんなことはあり得ない」と頑なに拒んだ。
 
 石川哲郎社長に事故が伝えられたのは29日になってから、同社はようやく会見に応じて事実を公表したが、回収作業は遅れ、被害は隣県におよび、14,780人が症状を訴える戦後最大の食中毒事件に発展した。
 
 大阪工場の逆流防止弁の洗浄不足が原因と発表して原因菌の繁殖は大阪工場に限定されるかに見られたが、事態はさらに深刻化する。
 
 大阪府警の捜査によって、大阪工場に原材料の脱脂粉乳を出荷していた北海道の大樹工場に原因があることが分かったのだ。
 
 同工場で起きた停電事故で、タンク内に滞留した脱脂乳に原因菌が繁殖、マニュアルでは滞留した材料の廃棄を定めていたが、工場では、「殺菌すれば問題ない」として、これをラインに乗せたまま製造を再開するという不手際が明らかになった。
 
 後手後手に回る社の対応に、消費者の雪印製品への不信感は高まり、スーパーから全製品が撤去される騒ぎとなった。
 
 雪印は前回の事故以来、最新の設備を誇り、業界をリードするトップブランドに成長していた。その奢りが大きなつけとして回り、雪印グループは解体、再編される事態に至った。
 
 かつての事故当時、佐藤貢社長が警告した「機械は人間の精神をそのまま反映する」という教訓が忘れ去られていたのだ。
 
 その佐藤社長の名訓示「全社員に継ぐ」は、どこへ行ってしまったのか。
 
 実は1976年から、新入社員への配布は打ち切られていたのだ。
 
 二度めの事故を受けて、雪印乳業はあらためて倫理綱領を定め、社員に示した。
 
 そこにこうある。
 
 「信頼を失うことは一瞬です。しかし、信頼を築くには長い歳月を要します」
 
 半世紀前に示された社長訓示そのままに。代を継いで教訓を維持し活かすことは、かくも困難なことなのだ。
 
 
 ※参考文献
  『記者会見のノウハウ』佐々淳行著 文春文庫
 
 
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  著者/宇惠一郎 ueichi@nifty.com 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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