戦略を見直し仕事への使命感を持つ
三重県鈴鹿市にある外構・造園会社 株式会社幸泉。
お客づくりの仕組みができあがり、業績が好調な幸泉ですが、
最初から戦略すべてが優れていたわけではありません。
地域戦略、客層戦略、営業戦略、顧客維持戦略に関して、
幸泉の“戦略ビフォア&アフター”をまとめてみましょう。
■営業地域戦略のビフォア&アフター
どこでも→車で30分
営業地域、施工範囲は当初、広かったといいます。
幸泉の所在地は鈴鹿市ですが、南は伊勢市から北は名古屋市まで
「声がかかればどこでも行ってました」と田中さん
現在は、会社から車で、およそ30分圏内の
・OB客が集中するエリア
・ついでに寄れるエリア
・資材会社に近いエリア
を対応エリアと設定しています。
営業範囲を決める際、都市部なら道路や鉄道、河川などが区分の目安になります。
また、地方都市や農村山間部においては、“時間”で考えるのもひとつの方法です。
「鈴鹿市近辺は信号が少ないので、30分あればけっこう走れます」と田中さん。
打ち合わせはもちろん、現地調査や資材搬入など、
会社と現場を行き来する頻度が高い仕事です。
時間で範囲を決めるのは賢明な方法です。
■客層戦略のビフォア&アフター
お客ならだれでも→長くお付合いしたい人
「昔は断りませんでした」と田中さん。
当社に合わない…、苦手…と感じるお客さまもいましたが、
お客さまだから…と引き受けていました。
造園業に限りませんが、仕事がなくても人件費は発生します。
職人さんを抱えていると、売上が必要です。
仕事を断っていたら、払うものが払えなくなります。
だからこそ、来る仕事を拒むことなくこなしていたのですが、
田中さんは、“お客を選ぶ”ことにしました。
「当社は日給月給制ですので、仕事がないという事態は職人さんにとって死活問題です。
雨が降ったから今日は仕事がないとか、梅雨だから仕事がないとは言えません。
掃除をしてもらったり、ベンチをつくってもらったりと、安定してお支払いができるように仕事づくりをしています。売上のことを思えば、どんな仕事も断らず、ありがたく引き受けるべきでしょう。
でも、仕事に対する価値観が合わないお客さんは、お断りすることにしました」
田中さんは、お客を2タイプに分けています。
「ずっとお付き合いしたいお客さま」と「そうじゃない方」です。
どういう人が、ずっとお付き合いしたくないタイプかは、
工事にかけるお金の考え方で判断しています。
「一例を申しあげると、ほかの会社の図面を持ってきて、
『お宅だったら、これいくらになりますか』と相見積りを要求する方は断っています。
モラルにかかわることですから。
誤解しないでいただきたいのですが、予算が多ければいいとか、
予算が少ないお客さまは断るということではありません。
お金持ちであっても、『これだけしかお金をかけられない』という人もいるし、
『これだけしかかけたくない』という人もいます。
外構をこんなふうにしたい! こんな庭で暮らしたい!と、
お客さまがやりたいことには、それに見合った費用がかかるということを
理解できる方でないと、あとで苦労します。
円満な関係を築くことができません。
お客さんも不満だろうし、がんばってやった仕事が報われないのでは
職人さんがかわいそうだし、会社も困りますからね」
田中さんは「この客層を絞る」といった考えはもっていません。
2300平方メートルの広大な敷地を「ガーデンギャラリー」として開放し、
地域の方を含め、お客さまの夢や計画のあと押しをしています。
幸泉の仕事、とりわけ職人さんの質の高さと照らし合せると、
相見積りをとるようなお客さまにはご遠慮願いたいという田中さんの考えは
たいへんよく理解できます。
■営業戦略のビフォア&アフター
施工後に紹介依頼→打ち合わせ段階から紹介を意識
建設業界では、施工後に「紹介営業」がスタートするのが一般的です。
工事が終わり、建物を引き渡したあと、満足感が高い状態のお客に
「どなたかお知り合いを」と紹介をうながしています。
幸泉では、とくに紹介営業に力を入れて取り組んでいたというわけではありません。
しかし、「仕事が認められて紹介がいただける」と田中さんも考えていました。
誰もが同じように考えます。
お客さまの立場から見ても、仕事の結果に満足したからこそ紹介したくなるのが
自然の流れでしょう。
ところが、です。田中さんはこんな話を教えてくれました。
「契約前に紹介をいただくこともあります。
こちらから紹介をうながしたわけではありません。
それなのに、打ち合わせ段階で紹介をいただいたり、
まだ工事中に紹介をもらったりすることがあるんです。
もともと紹介が多かったので、最初に面会した段階で聞くようにしたんですね。
『どなたからの紹介ですか』と。
打ち合わせの段階から、こちらが紹介を意識するようになると、
お客さまも意識してくれます。
ああ、ここは紹介が多いところだなと。
それだけのことなんですが、現在、紹介やリピートによる受注が6割を超えています。
イベント案内チラシやホームページからが3割、
あとはハウスメーカーからの依頼といったところです」
幸泉に仕事を依頼するお客は、40代、そして60代より上の年齢層が
多いという傾向があります。
40代でマイホームを建てる方が、
エクステリア工事も合わせておこなうパターンがひとつ。
もうひとつは、退職時にマイホームを建てる方が、
好みの庭をつくりたいというパターンです。
鈴鹿市近辺には旭化成、AGF味の素、ホンダといった
大企業の工場が数多く存在しています。
在職中に住宅を建てる人もいますが、退職した人が自宅を建て替えたり、
庭を整備しなおしたり、退職を機に住宅を建てる人が多数います。
従業員数の多い企業ばかりですから、紹介が見込めるのは間違いありません。
しかし、より重要なのは、「契約前でも紹介をいただける」という田中さんの話です。
考えてみれば、お客が満足するのは引き渡し後とは限りません。
一番初めの打ち合わせのときでも、「ここはいい会社だ」
「この人たちに出会えてよかった」と満足しているはずです。
あとは、「この会社は紹介が多い」ということを認識してもらうだけ。
“お願い”しなくても、満足しているお客は紹介してくれるものです。
■顧客維持戦略のビフォア&アフター
連絡待ち→まごころ電話
建設業界は、台風の後、お客からの連絡が増えることがあります。
修理、修繕の依頼が寄せられるからです。
幸泉でも、お客から要請されれば相談にのったり、出向いたりしていました。
そこにはなんら改めるべきことはありません。
しかし、リーマンショックが過ぎたころ、田中さんは新たなやり方に変えました。
「台風のあと、お客さまに電話をすることにしました。
従業員みんなで手分けして電話です。
台風が通ったあと、ニュースで屋根が飛んだ状況を目の当たりにすると
心配になりますよね。だから、大丈夫ですかと電話をするわけです。
営業ではありません。
本当に心から、大丈夫でしたかと安全を確認します。
そのときは電話をかけるだけで済むことがほとんどです。
被害が発生していないことが多い。
でも電話をかけたお客さまから、数年後に注文をいただいたりします。
『あのとき声をかけてくれてうれしかった』とか『あの電話が忘れられなくて』と。
僕たちは営業とは思っていませんが、結局は、こういう電話が営業になっていると思います」
電話だけではありません。幸泉の従業員は、工事後のお客さま宅をよく訪問します。
「近くで工事があるので寄りました」
「近くで虫がわいたと聞いたので、大丈夫かなと思って寄りました」
「風が強いので、もし根元が弱っていたら肥料をまいてくださいね」
留守ならメッセージをおいてきます。
工事が完了したお客さまのお宅に寄るわけですから、決して営業ではありません。
アフターサービスというわけでもありません。
しかし、リピートや紹介につながる立派な顧客維持活動になっています。
費用がかからず、お客の側にも精神的負担を感じさせない優れた活動です。
田中さんは、「お客さまの暮らしがより良くなることが、私の願いです。もっと楽しく、より豊かに、安心して暮らして頂けるためには何が必要か?」と問い続けておられます。
人は問いを忘れたとき、人の成長は止まります。常に理想を求め探求していく姿勢がより良い未来を描くと私は信じています。
幸泉の取材を通じて田中さんの仕事に対する使命感を強く感じました。