東洋バレル技研の実践に学ぶ地域密着型経営
こんにちは、1位づくり戦略コンサルタント 佐藤元相です。
中小企業にとって「1社依存」は見過ごせないリスクです。主要顧客の方針転換や経済環境の変化が、経営基盤を根底から揺るがす可能性を秘めているからです。
大阪市平野区の町工場、東洋バレル技研株式会社は、このリスクに正面から立ち向かい、地域密着型の1位づくり戦略を実践することで復活を遂げました。その背景には、過去の教訓とお客様の声に耳を傾ける姿勢がありました。
2008年、リーマンショックが突きつけた現実
1977年に創業した東洋バレル技研は、精密機械部品のバレル研磨加工を手掛け、大手企業の下請けとして業績を上げていました。しかし、2008年のリーマンショックで主要顧客からの発注が激減。売上の大半を特定の1社に依存していたため、倒産寸前にまで追い込まれます。
「格闘技でマウントを取られたような状況」と語る別所長政社長。この危機に際し、新規顧客開拓に取り組むものの、親会社の事業が持ち直したことで経営は一時的に安定。結果として、新規開拓は形ばかりとなり、経営構造の根本的な見直しには至りませんでした。
再び訪れた危機とランチェスター戦略の実践
2022年、再び親会社からの発注が激減。「これではダメだ」と痛感した別所社長は、2023年、ランチェスター戦略を学び、実践することを決意します。特に「弱者の戦略」として、どこで勝つべきかを明確にすることを重点課題としました。
かつて、同社は福岡での展示会出展など、日本各地で得意先を作ることを目標としていましたが、物流コストや迅速な対応力が障害となり、無駄の多い戦略であったと認識。「勝てる市場に集中する」方針に切り替え、大阪南東エリアに絞る決断をしました。
仮説とデータで築いた地域戦略
ランチェスター戦略では、仮説を立て、それをデータで検証するプロセスを大事にしています。同社は、帝国データバンクから市場データを取り寄せ、大阪南東エリアの売上規模や同業他社の動向を徹底分析しました。
その結果、自社規模に合った見込み顧客が多く存在し、地域内で十分に戦えることが判明。同時に、多くの同業他社が「待ちの営業」に留まっていることを確認しました。
これを受け、提案型営業による差別化の可能性に確信を持ちました。この戦略は、顧客の課題を聞き出し、それに応える具体的な提案を行うことを基本としています。
お客様の声を聴くことを徹底
「購買の決定権は100%お客様が持っている」というランチェスター戦略の教えを守り、同社は徹底的にお客様の声を聴くことに注力しました。
営業担当者が直接顧客を訪問し、ニーズや課題を丁寧にヒアリング。その情報を元に、顧客が本当に求める解決策を提案するスタイルを確立しました。
SNSやニュースレターを活用した情報発信や工場見学の開催も強化。これらの活動を通じて顧客との信頼関係を構築し、「東洋バレルなら任せられる」という安心感を提供しました。
選択と集中で築いた強さ
また、同社は「勝てるものに集中する」戦略を徹底しました。稼働率の低い加工技術や設備を整理し、収益性が高い分野に特化することで、限られたリソースを最大限に活用する体制を整備。これにより、より高品質なサービスを安定的に提供できる基盤を築きました。
成果が示す地域密着の威力
こうした取り組みの成果として、2023年には年間45件だった新規問い合わせが、2024年初頭にはわずか3カ月で50件を超える勢いを見せました。そして、2024年を通じて新規取引件数は60件を達成し、確かな成長を遂げました。地域に特化することで物流コストや対応力の課題を解消し、顧客満足度を向上させています。
1位づくりがもたらす未来
東洋バレル技研の成功の背景には、教訓を活かした改革の決意があります。「どこで1位になるのか」を明確にし、仮説を立て、検証し、行動に移す。このプロセスを丁寧に実践した結果、同社は地域で信頼される町工場として成長を遂げました。
「1位になる」とは、顧客にとって欠かせない存在になることです。そのためには、顧客の声に耳を傾け、彼らの課題解決に寄り添うことが不可欠です。東洋バレル技研の取り組みは、同じ課題を抱える中小企業にとって、大きな示唆を与えるでしょう。
戦略の要点:東洋バレル技研の成功から学ぶ3つの柱
1. 勝てる市場への集中
広域営業から脱却し、自社の規模やリソースに適した大阪南東エリアに戦略を絞ることで、物流コストや対応力の課題を解消。地域密着型の経営により、顧客満足度と競争優位性を高めました。
2. お客様の声を徹底して聴く提案型営業
「購買の決定権は100%お客様が持っている」という考えを基に、顧客の課題を丁寧にヒアリング。そのニーズに応える具体的な解決策を提案する営業スタイルを確立し、信頼を得ることで新規顧客の獲得に成功しました。
3. 選択と集中の徹底
稼働率の低い加工技術や設備を整理し、収益性の高い分野にリソースを集中。効率的な経営体制を築くことで、高品質なサービスを安定的に提供する基盤を整えました。