menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

戦略・戦術

第八十話 「1社依存」からの脱却:町工場が挑んだ地域密着型差別化戦略

中小企業の「1位づくり」戦略

東洋バレル技研の実践に学ぶ地域密着型経営

こんにちは、1位づくり戦略コンサルタント 佐藤元相です。
中小企業にとって「1社依存」は見過ごせないリスクです。主要顧客の方針転換や経済環境の変化が、経営基盤を根底から揺るがす可能性を秘めているからです。

大阪市平野区の町工場、東洋バレル技研株式会社は、このリスクに正面から立ち向かい、地域密着型の1位づくり戦略を実践することで復活を遂げました。その背景には、過去の教訓とお客様の声に耳を傾ける姿勢がありました。


2008年、リーマンショックが突きつけた現実

1977年に創業した東洋バレル技研は、精密機械部品のバレル研磨加工を手掛け、大手企業の下請けとして業績を上げていました。しかし、2008年のリーマンショックで主要顧客からの発注が激減。売上の大半を特定の1社に依存していたため、倒産寸前にまで追い込まれます。

「格闘技でマウントを取られたような状況」と語る別所長政社長。この危機に際し、新規顧客開拓に取り組むものの、親会社の事業が持ち直したことで経営は一時的に安定。結果として、新規開拓は形ばかりとなり、経営構造の根本的な見直しには至りませんでした。


再び訪れた危機とランチェスター戦略の実践

2022年、再び親会社からの発注が激減。「これではダメだ」と痛感した別所社長は、2023年、ランチェスター戦略を学び、実践することを決意します。特に「弱者の戦略」として、どこで勝つべきかを明確にすることを重点課題としました。

かつて、同社は福岡での展示会出展など、日本各地で得意先を作ることを目標としていましたが、物流コストや迅速な対応力が障害となり、無駄の多い戦略であったと認識。「勝てる市場に集中する」方針に切り替え、大阪南東エリアに絞る決断をしました。


仮説とデータで築いた地域戦略

ランチェスター戦略では、仮説を立て、それをデータで検証するプロセスを大事にしています。同社は、帝国データバンクから市場データを取り寄せ、大阪南東エリアの売上規模や同業他社の動向を徹底分析しました。

その結果、自社規模に合った見込み顧客が多く存在し、地域内で十分に戦えることが判明。同時に、多くの同業他社が「待ちの営業」に留まっていることを確認しました。

これを受け、提案型営業による差別化の可能性に確信を持ちました。この戦略は、顧客の課題を聞き出し、それに応える具体的な提案を行うことを基本としています。


お客様の声を聴くことを徹底

「購買の決定権は100%お客様が持っている」というランチェスター戦略の教えを守り、同社は徹底的にお客様の声を聴くことに注力しました。

営業担当者が直接顧客を訪問し、ニーズや課題を丁寧にヒアリング。その情報を元に、顧客が本当に求める解決策を提案するスタイルを確立しました。

SNSやニュースレターを活用した情報発信や工場見学の開催も強化。これらの活動を通じて顧客との信頼関係を構築し、「東洋バレルなら任せられる」という安心感を提供しました。


選択と集中で築いた強さ

また、同社は「勝てるものに集中する」戦略を徹底しました。稼働率の低い加工技術や設備を整理し、収益性が高い分野に特化することで、限られたリソースを最大限に活用する体制を整備。これにより、より高品質なサービスを安定的に提供できる基盤を築きました。

 

成果が示す地域密着の威力

こうした取り組みの成果として、2023年には年間45件だった新規問い合わせが、2024年初頭にはわずか3カ月で50件を超える勢いを見せました。そして、2024年を通じて新規取引件数は60件を達成し、確かな成長を遂げました。地域に特化することで物流コストや対応力の課題を解消し、顧客満足度を向上させています。


1位づくりがもたらす未来

東洋バレル技研の成功の背景には、教訓を活かした改革の決意があります。「どこで1位になるのか」を明確にし、仮説を立て、検証し、行動に移す。このプロセスを丁寧に実践した結果、同社は地域で信頼される町工場として成長を遂げました。

「1位になる」とは、顧客にとって欠かせない存在になることです。そのためには、顧客の声に耳を傾け、彼らの課題解決に寄り添うことが不可欠です。東洋バレル技研の取り組みは、同じ課題を抱える中小企業にとって、大きな示唆を与えるでしょう。

 

戦略の要点:東洋バレル技研の成功から学ぶ3つの柱

1. 勝てる市場への集中
広域営業から脱却し、自社の規模やリソースに適した大阪南東エリアに戦略を絞ることで、物流コストや対応力の課題を解消。地域密着型の経営により、顧客満足度と競争優位性を高めました。

2. お客様の声を徹底して聴く提案型営業
「購買の決定権は100%お客様が持っている」という考えを基に、顧客の課題を丁寧にヒアリング。そのニーズに応える具体的な解決策を提案する営業スタイルを確立し、信頼を得ることで新規顧客の獲得に成功しました。

3. 選択と集中の徹底

稼働率の低い加工技術や設備を整理し、収益性の高い分野にリソースを集中。効率的な経営体制を築くことで、高品質なサービスを安定的に提供する基盤を整えました。

第七十九話 廃材が紡ぐ未来―東大阪の縫製工場の挑戦「地球黒字化経営」前のページ

関連セミナー・商品

  1. 佐藤元相の《何かの分野で1位になれば》必ず儲かるCD

    音声・映像

    佐藤元相の《何かの分野で1位になれば》必ず儲かるCD

関連記事

  1. 第三話 下請け町工場の新販路開拓のやり方

  2. 第六十四話 下請け町工場とランチェスター戦略:失注から始まるパートナーシップ

  3. 第三十八話 勝ち残る学習塾の差別化戦略 その1.退塾を減らす方法

最新の経営コラム

  1. 193軒目 「熱海温泉 古屋旅館 @静岡県熱海市 ~創業、江戸時代1806年、お風呂よし、料理よし、風情よし」

  2. 第51話 公正な人事評価のための管理職への動機付け

  3. 朝礼・会議での「社長の3分間スピーチ」ネタ帳 2025年2月12日号

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 製造業

    第241号 改善はカンタン
  2. 経済・株式・資産

    第90話 中国の「為替操作国」認定はあり得るか?
  3. 社員教育・営業

    第22講 『理解』と『納得』のクロージングに失敗しないために~その...
  4. 採用・法律

    第9回 『社員がガンになったらどうするの?!』
  5. 戦略・戦術

    第四十二話 国境の島の100年企業の取り組み
keyboard_arrow_up
menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ