今回は、中途採用者の賃金決定の問題を取り上げたいと思います。
中途採用と一口にいっても、急な退職者の出現による欠員補充もあれば、新たな事業分野への進出をにらんだ優秀な業界(職種)経験者をターゲットとした採用など、採用の目的は様々ですが、正社員として長期間に亘って雇用する前提であれば、企業理念や組織風土を正しく伝えるとともに、わが社の一員としてしっかり実力を発揮してもらえるような処遇決定をしなければなりません。
「優秀な人材をいかに確保するか」これは、すべての企業にとっての大命題です。とりわけ新卒採用を継続的かつ安定的に行うことが難しい環境にある中小企業では、中途採用者をいかに確保し定着させるかが社の命運を左右するといっても良いでしょう。にもかかわらず、中途採用者の賃金決定で間違った対応をされている会社が非常に多いのも、また事実なのです。
具体的には、次の2つがその代表例といえましょう。
- 業界経験がないこと等を理由として、プロパー社員より大幅に低い水準で基本給を設定し、その後の見直しや習熟に応じた相応の昇給を行っていないケース
- 大手企業からの転職組を採用するにあたり、本人希望額をクリアするために既存の成績優秀者を大きく上回る基本給を支給しているケース
こうした歪みを生むような賃金決定が罷り通ってしまう原因としては、採用スタンスがしっかり決まっておらず、応募者に求めるべき人物像が明確になっていないことが考えられます。中途採用を行なう際は、会社が求める人物像が明確になっていなければいけません。
A.即戦力として期待できる経験者が欲しいのか(一般採用)
B.急いで人手を確保したいのか(初級業務採用)
C.高度なマネジメント力ある実力者等を幹部候補としてスカウトしたいのか(スカウト採用)
Cのスカウト採用には、高度な専門技能・知識を有する専門職の採用も含めて考えることができます。
漠然と「人が足りない!」との想いだけで採用活動に踏み出してはいけません。実際の業務手順に沿って、中途採用者の採用時初任給の決定手順をみていきましょう。
【まず何等級で採用するかを決める】
賃金管理研究所が推奨する責任等級制度を始め、職務等級や役割グレード制など仕事基準の処遇体系では、入社後にどのレベルの仕事を任せるかによって等級格付が決まります。まず何等級で採用するのか、すなわち会社としてどのレベルの仕事(職制上の責任範囲)を任せるのかを決めることが、最初の手順となります。
【採用時の評価結果に従って基本給水準を仮決定する】
合理的な賃金制度が確立している会社であれば、採用評価に基づいて、容易にバランスの良い基本給額を導くことができるはずです。仮に採用評価を通じて「3等級(主任クラス)で、年齢は33歳、平均的なオールB評価相当が妥当である」と判断したのであれば、賃金表や自社のモデル昇給グラフ等からその条件に見合う基本給額を読み取り、いったん仮の基本給額として決定します。
【仮決定した本給号数と在籍者とのバランスを調整し、最終的な基本給額を決める】
仮決定された号数(=金額)は、実際の在籍者とのバランスを確認したうえで必要に応じて凸凹調整を行ない、バランスの良い号数に修正します。本人への能力発揮期待度と本人希望額とのバランスも総合的に判断しながら、最終的な基本給額を決定します。
【各種手当を加算し、採用初任給を決定する】
基本給が決まれば、給与規程のルールに従って各種手当を加算し、月例賃金総額を確定します。
常に人材不足の状況に置かれている会社も少なくありませんが、「常に良い人材がいれば採用したい」という会社もあれば、「退職者の穴を埋めるため最小限の補充を」という会社もあり、採用戦略のスタンスも会社によって其々だと思います。
ただ、なかなか思い通りにならないのが昨今の採用市場です。「将来を託せる有望な人材を確実に確保したい」と採用コストをかけたとしても、殆んど応募がないということもあり得るのが今日の状況であり、環境変化に応じて機動的に対応することも必要となるでしょう。