前回、「気持ちを新たに、総チェック」をお話しました。今回は、「教える時に上手く相手に届くポイント」をお話します。
接遇五大原則と言う言葉がありますが、お聞きになった方もいらっしゃると存じます。どのような職種においても最低限必要なマナーで、新人研修では特に外せない項目です。(研修をお依頼いただく会社に合わせてテキストに使う言葉は多少変わりますが、研修内容の屋台骨は同じです)
一例を上げると以下のようなことです。
対面でのコミュニケーションとして、
1. 印象を高める表情
2. 感じの良い挨拶と返事
3. 組織人としての身だしなみ
4. 魅せる所作
5. 品格を伝える言葉遣い
そしてこの括りとは別に、姿を見せあえないコミュニケーションとして、
6. 電話応対
があります。
皆さんがこれらを社内でアドバイス・指導をなさるには、まずこれらを皆様自身がクリアしていないと、おっしゃることの説得力が弱くなってしまいます。
では今回の内容に入る前に、皆さんが対応なさる大よそ30歳以下の「Z世代」(2024年現在)の方々の社会的背景を考えてみましょう。
①生まれたときからデジタル技術が身の回りにあるソーシャルネイティブ。環境として多くの情報に触れられるためそれ以前の人より、自分が興味を持たない情報も多く入っている新聞・テレビ離れが進んでいます。自分にとって必要な情報はWebメディアから取捨選択をして入手する傾向→効率を重視する(反面、自分中心の集め方なのでその視野が狭い)
②学校教育やインターネットの情報などから多様性に違和感を持たない→「自分らしさ」を大切に思っている(反面、他人からの評価に敏感(=承認欲求が強い)
③指摘に対して落ち込みやすい
④環境問題意識・社会問題意識などを持っている(東日本大震災の体験、またはライブでその情報を目にしていることも影響している?)などが挙げられます。
ここに挙げたのもがすべてではなく、勿論他の要素もあるでしょう。ただ皆さんが接する対応者の傾向をある程度頭に入れて置くと、的外れなアドバイスや指導になることは避けられます。
皆さんは「メラビアンの法則」と言う言葉をご存じでしょうが、第一印象を決める要素として半分以上が非言語情報、つまり視覚情報(55%)です。続いて聴覚情報(38%)、最後が言語情報(7%)です。
前述の研修の項目の「1」・「3」・「4」の非言語情報からアドバイス・指導のポイントをお話します。特に非言語情報=「視覚情報」については、スキルという角度で伝えていただくとある程度まで達成し易いです。
「1」印象を高める表情
私たちは国民性として、一般的に表情が豊かとは言い難いと感じています(スマホの中のプライベートの写真などは、かなり変わってきています)。その意味から自分の表情で相手にマナーとして「安心・安全・信頼など」を感じていただくには、口と目がポイントです。(口の形をマスターすると目尻が連動して下がり、笑った時の形になります)
まず「微笑」からお話します。生まれながら人は色々な口元をしています。鏡を用意して自分の場合、上唇と下唇を閉じたときの線が「①横に一直線②口の両端の「口角」のところで直線が下がっている③「口角」が上がっている」のどのタイプかチェックしてもらいます。③の人は少数派で、生まれつきといってよいでしょう。殆どの方が①か②に該当します。でもスキルで全員が③を獲得できます。
自分のタイプを知ってもらったら、鏡を見て矯正の開始です。とても簡単です。
①の人も②の人も、自分の口角の両端を耳たぶの下のラインを目指して上に動かしてください。はじめは今まで意識して口角を動かすことがなかったでしょうから、②の方は①の方よりやりにくいかも知れません。
ここで大事なのは、③のラインになったとき、自分は口角の筋肉を感覚として何センチくらい上げたかを覚えておくことです。私は研修中に②から③になった方に、敢えて質問しました。
「○○さん、体感として口輪筋を何センチ位自分では上げたと思いましたか?」その方の答えは「五センチ位です」でした!左右の口角を結んだラインと左右の耳たぶの下を結んだラインの距離が5センチもある方は、ほとんどいらっしゃいません。
○○さんの例から言えるのは、たとえ○○さんが5センチ位口角を上げたと思っても相手の眼に映る○○さんの表情は、「笑顔」ではなくまだ「微笑」に到達したにすぎません。本人はまさか!と思うかも知れませんが、それほど自分の『つもり』の表現力と相手の認識にはギャップがあるのです。
この時点での全員の「微笑」が、仕事中コミュニケーションを取る時の基本の表情です。「微笑」は相手に、「私は受けいれられている」を思わせるプラスの働きをします。例えば日本では広隆寺の国宝弥勒菩薩半跏思惟像がその代表格、そして海外ではあのモナリザです。
再び鏡をご覧ください。一般的に白い歯が見えていると、「笑っている」が相手にすぐわかります。今度は歯の数を意識します。今まで笑ってきたときの口の開き方を再現してください。口の大きさも人それぞれなので一概に何本というのは難しいですが、8本見えるぐらいが誰からも「笑顔」と分かってもらえる標準のような気がします。今まで見えた歯の数が6本だったら、もうひと頑張りして一気に8本見せられるように、一層口を横に開いてください。
すでに8本見えている方は、口輪筋を何処で止めたら10本見えるようになるか筋肉を止める場所を研究してみましょう。日本語は口を縦に開けることが多いので、「横に広く開ける意識」を強く持つことが重要です。
次は口を閉じた位置からスタートします。サッと口を横に開いて、鏡に映る自分の上の歯の数が、何本見えているか数えてください。自分の歯は8本見えているはずと思っても、6本しか見えない可能性は大きいです。何度か試していくうちに口を大きく開くことに慣れて、思い通りの歯の数が見せられるようになります。どうぞご安心ください。
あなたはトレーニングの途中の段階で、今まで笑顔をしていたつもりでも、笑顔をしていると思っていたのは自分だけだったのではと感じませんでしたか。これはまさに『笑顔のつもり』は、あてにならないということではないでしょうか。
ちなみに野球選手大谷翔平さんのフルスマイルはとても素敵です。私はユーチューブの動画を止めて、上の歯の数を数えてみました。やはり10本しっかり見えていました!
最後は、言葉での説得です。笑顔がもたらす自分にとっての4つのメリットです。
① 免疫力を高める→免疫細胞の一種であるNK細胞が発生した癌細胞を破壊する
② ストレスの緩和→ストレスを感じると増えるホルモン、コルチゾールを減少させる
③ 脳を活性化するβ(ベーター)波、脳をリラックスさせるα(アルファー)波が出る。
④ いつも笑顔は、実年齢より5歳位若く見せる
いかがでしょうか。
女性には特に④が喜ばれそうです。以上のようなメリットがあるのですから、たった今から「笑顔」をしましょう。次回は視覚情報の「3」・「4」を見ていきます。