貸し手は、借り手の返済能力が一番気になります。返済能力は、会社単体のバランスシートで判断されることになりますが、本当の判断は、連結バランスシートで行われるのです。
連結バランスシートがこれからお話しします、融資してもらえるバランスシートになっているかどうかが大事なのです。
◆融資してもらえるバランスシート
別に銀行のために経営しているわけではありませんが、銀行から融資を受けている場合は、何らかの束縛といいますか、銀行の目というものが気になってきます。
融資してもらえる魔法のバランスシートは、本当のバランスシートが債務超過ではないことになります。
本当のバランスシートでは、資産は、「現金化できるもの」「収益を生むもの」と定義しますので、返済不可能な貸付金や資金使途不明な仮払金、回収可能性の低い売掛金や販売見込みのない在庫、そして建物などは価値ゼロとなりますので、厳しい数値になってきます。
たとえ会社側で本当のバランスシートを作成していなくても、銀行側は何らかの形で作成しているはずです。ですから、自社で本当のバランスシートを作成し、それを銀行に提出することが必要だと思います。その場合、本当のバランスシートが債務超過状態にならないようにしなければなりません。
本当のバランスシートが大幅な債務超過になった場合、完全に、融資はNOになりますし、銀行は回収に入ってきます。ですから、たとえ債務超過でもぎりぎりの状態にしておく必要があります。
「形式上では、資産が負債を上回っていますが、実質的に債務超過状態ですので、金利の引き上げか、返済金額の増額をお願いします」
銀行の融資担当者が融資先企業に対して発した言葉です。
これは、決算書ではなく、本当のバランスシートが債務超過になっているという意味です。
◆純資産が1000億円あっても倒産するわけ
この言葉の意味を考えるために、1000億円超の純資産があった新興不動産会社アーバンコーポレーション(東証一部上場会社)が民事再生、つまり、倒産したことを少し見てみます。負債総額が2500億円あっても純資産が1000億円超もあったのです。
純資産とは、資産から負債を差し引いたものです。通常、純資産が大きいと会社は安全と判断されます。しかし、結果は倒産です。
ここで、バランスシートを少し掘り下げて考えてみる必要があると思います。
通常、上場会社のバランスシート、つまり貸借対照表は、会計上または帳簿上のバランスシートのことをいいます。先ほどの1000億円というのは、会計上のバランスシートの金額です。先ほどお話した本当のバランスシートではありません。
純資産が1000億円超もある会社がいとも簡単に資金ショートで潰れていくのです。なぜなのでしょうか。
純資産とは資産から負債を差し引いたものですが、資産に換金性がなければ、純資産もただの数字にすぎません。
アーバンの場合、会計上の資産の金額は多額でしたが、キャッシュにならない資産が多くあったことを物語っています。
つまり、本当のバランスシートは債務超過状態だったといえます。だから融資がストップされ、資金繰りがつかなくなったのです。
先ほど、銀行の融資担当者が実質的には債務超過だと話をしていたのは、この本当のバランスシートが債務超過だったということなのです。
貸し手である銀行の判断基準は、回収可能性ですので、現在行っている事業の営業収入から営業支出を差し引き、さらに既存の借入金の返済と利息の支払いを差し引いた残額がプラスであり、かつ、そのプラスの範囲で、新規借り入れの返済と利息の支払いが可能であれば、新規の借り入れを安心してすることができます。
もちろん中小企業の中には、先ほどのプラスの箇所が、トントンもしくはマイナスの場合も多々あるはずです。この場合は、安易に借入を行うのではなく、借入しなければどうなるかを一度は考えてみるべきです。
借入をしなかった場合、様々な人の顔が浮かんでくると思います。浮かんだ顔に優先順位を付け、相談をしに行くことになります。支払を延期してもらうか、分割払いにしてもらい、少しでも営業収入から営業支出を差し引いた額をプラスになるようにしていくのです。
借入れは、借りたことが解決ではなく、返すことが解決であることを肝に銘じなければいけません。
後ろ向きの借金はご法度であることは当然ですが、それでもあとを絶ちません。資金調達の目的を偽ってでも、後ろ向きの支払いのため、借金をします。
ちなみに前向きな借金とは、仕入代金は未払いですが、販売も未回収である状況の借金を言います。つまり、この場合ですと、借金をして材料費を支払ったとしても、販売の入金により、借金の返済が可能になります。
しかし、後ろ向きの借金の場合、借金をして仕入の未払い分を支払ったら、この借金の返済の資金は別のところから工面しなければならず、結局、借金の返済だけ残ることになります。
したがって、新規借金の支払い原資は、借金をする前の営業活動上の資金余剰でなければならないのです。