相続によって承継する会社所有不動産に税金の滞納による差押がついていたら、結論から先に言うと事業承継そのもの、相続そのものを検討しなおしたほうがよいです。
まず、税金の支払が遅れただけでは税金の滞納による不動産の差押がされることはありません。かなりの月日が経過しても滞納分が納付できないときに始めて差押がされるのです。仮に会社所有不動産に担保が目一杯ついていて不動産の時価以上の融資がされている状態でも役所は差押をしてきます。
市町村民税に係る督促及び滞納処分を例として、
税金の滞納によって差押にいたるまでを法規と実際について簡単に書いておきます。
税金の納付期限を経過(滞納)
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納付期限から20日以内に督促状発送 (*地方税法第329条)
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財産調査
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督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに差押 (*地方税法第331条第1項)
税金滞納から差押までは上記の流れになるのですが、実際には滞納から1年~3年で差押をしてくる例が多いようです。
分割で滞納分を納付していたとしても、短期で完納のめどがたたない場合など役所の規則に従い平然と差押をしてきます。
ここまでの流れでもわかるように、会社所有の不動産に差押がされている状態というのはもうほとんどのケースで手遅れの状態なのです。ここ2~3年の間に前社長が滞納分を納付しようとしたができなかったという状態なのです。その不動産に銀行の抵当権が設定されていて融資があるとすれば、新規融資はのぞめないばかりか、たいていの場合で期限の利益は喪失していて倒産に向かっていることになります。
もちろん、その不動産を売って滞納分の税金を納付すればいいのですが、多くの場合でその不動産を売ることができなかったり、あるいは任意売却を希望しても、その売却代金では滞納税金が納付できないため任意売却にさえもちこめないケースが多いのです。
それゆえに、相続によって承継する会社所有不動産に税金の滞納による差押がついていたら、事業承継すべきか、相続すべきかの両方を資産と負債のバランスを参考に考え直すことがもっともよいことになるのです。
*関係法令 参照:E-GOV地方税法
(市町村民税に係る督促)
地方税法第329条
納税者(特別徴収の方法によつて市町村民税を徴収される納
税者を除く。以下本款において同様とする。)又は特別徴収義務者が納期限(第
三百二十一条の十一又は第三百二十八条の九の規定による更正又は決定があつ
た場合においては、不足税額又は不足金額の納期限をいい、納期限の延長があ
つたときは、その延長された納期限とする。以下市町村民税について同様とす
る。)までに市町村民税に係る地方団体の徴収金を完納しない場合においては、
市町村の徴税吏員は、納期限後二十日以内に、督促状を発しなければならない。
但し、繰上徴収をする場合においては、この限りでない。
(市町村民税に係る滞納処分)
地方税法第331条
市町村民税に係る滞納者が次の各号の一に該当するときは、
市町村の徴税吏員は、当該市町村民税に係る地方団体の徴収金につき、滞納者
の財産を差し押えなければならない。
一 滞納者が督促を受け、その督促状を発した日から起算して十日を経過した
日までにその督促に係る市町村民税に係る地方団体の徴収金を完納しないとき。