●テンピュールの歴史
テンピュールは1970年にNASA(米国航空宇宙局)のエームズ研究センターで、ロケットの打ち上げ時に宇宙飛行士にかかる強烈な加速重力を緩和し、さらに宇宙船内の座席を快適にするために開発されたヴィコエラスティックホームという素材が原型になっている。
このヴィコエラスティックホームを基に、スウェーデンのファゲダーラ社が商品化したのがテンピュールだ。この商品は当初小規模に生産され、主に医療向けにだけ利用されてきた。それが1991年にデンマークのテンピュール・ワールド・ダン・フォーム工場で、テンピュール素材を大規模生産する体制が整い、枕、マットレス、クッションなどの製品に形を変え、現在のテンピュール・ブランドとして発展してきた。
テンピュールは、米国宇宙財団によって「認定技術」ロゴの使用を認可された唯一のマットレス・ピローメーカーで、現在はデンマーク製品として販売されている。
2005年にテンピュールはプレミアムマットレス&ピローの分野で世界No.1という評価を獲得し、2011年には約20年間でマットレスと枕の売上げにおいて世界No.1の地位を確立している。
●テンピュールの3つの特徴
○体圧を分散
テンピュールは、人間の体温と体重を感知しゆっくりと沈みながら身体を支えるオープンセル(細胞)構造の特殊粘弾性ポリウレタンフォームでつくられている。連続気泡構造により、身体の形に添ってテンピュールの形が変わり、体圧を全体に分散させる。そのため睡眠の質を低下させる不必要な寝返りの回数を減らすことができる。また体圧がなくなればすぐにまたもとの形に戻るのが特徴だ。
○環境対策
テンピュールは、溶剤に水を使って反応させて生産しているため、環境に負荷をかけないとされる。
○衛生的
テンピュールの素材は抗菌処理されているため、細菌が発生しないといわれている。
●テンピュールの商品価格
テンピュールを代表する枕(オリジナルネックピロー)は9000円~15000円。マットレスのオリジナルコレクション「オリジナル19」は150000円~240000円となっており、寝具市場では破格の高価格帯で販売されている。
<「テンピュール」の事例に学ぶこと>
テンピュールは宇宙飛行士にかかる加速重力を緩和し、宇宙船内の座席を快適にするという極めて限定された与件を満たすために開発された技術がベースになっている。この技術を使い、自社に最適な市場とブランドを創造するために、マーケティングの代表的なセオリーであるSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)が実践された。
テンピュールは自社の強みを生かせる市場として、当時誰も気付かずにいた「快眠」という新しい領域を発見し、独自の市場として開拓。他社にはできない高価格設定により、テンピュールは高収益性を確保していく。これが同社の価値となり、リーディングカンパニーとしてブランド力をも発揮することになったわけだ。
《 酒井氏 好評既刊》
●価格の決定権をもつ経営
●ストーリービジョンが経営を変える
●中小企業が強いブランド力を持つ経営