アジア太平洋地域の発展を目的とし、域内の全主要国と地域が参加するAPEC(アジア太平洋経済協力)は1989年に発足し、1993年以降首脳会議が毎年開催されている。21の国と地域からメンバーが参加し、経済規模は世界の国内総生産(GDP)の約6割、また人口は約4割を占める。
2010年に横浜で開催されたAPEC2010で各国首脳の乾杯グラスと贈答品として採用され、さらに過日初来日されたイギリスのウィリアム王子の贈答品としても選ばれた日本製ハンドメイド製品がある。それが「SUSギャラリー」の真空チタンカップだ。
●量産品には出せない魅力
江戸時代の初期に農家の副業として和釘づくりから始まり、金属加工の街として350年の歴史を誇る新潟県燕市。この地の職人たちの手によって真空二重構造のチタンカップなどの製品を製造販売するのが、㈱セブンセブン(澁木収一社長)が手掛ける「SUSギャラリー」だ。
カップ全体が真空二重構造のため内側と外側の間に断熱効果が生まれ、保温・保冷効果が高く、氷を入れても溶けにくく結露しにくい。チタンは金属の中でも丈夫で軽いため高価だが、金属イオンが溶け出しにくく非常に安定した金属で、飲み物に金属臭がつきにくいため味を変えない。またチタンは医療器具にも使われ、人の身体と相性がいい素材とされている。
「SUSギャラリー」の製品には、ミラー、ゴールド、セピア、ミントなど多様な色彩の製品が存在するが、色づけは一切していない。同社は酸化皮膜の厚みをミクロンレベルで調整し、光の反射具合が変化して色がついているように見えるように製造している。これはシャボン玉の表面が七色に見える現象と同じだ。軽くて丈夫な上に飲み口が薄いため、口当たりが良いのも特徴だ。
同製品は手づくりで、完成しても厳密に品質検査が行われるため、基準に達しない製品は出荷されない。それだけに出荷数が限られるが、こうした技術と手間が量産品にはない独特の魅力を醸し出している。
販路は日本橋のコレド室町3の直営店のほか、販売価格を安くしないデパートや専門店、ネット通販店などで取扱われている。
<SUSギャラリーの事例に学ぶこと>
かつて燕の金属加工業界はヨーロッパのデザインを踏襲した模倣品を製造し、海外からバッシングを受けたことがあった。さらにブランド力のない地元企業の手による大量生産品は、海外製品との価格競争に巻き込まれてしまった経緯がある。
そんな中で「SUSギャラリー」は独自の技術力とデザイン性で同社のブランド価値を高め、価格が高くても価値で選ばれる日本製品という評価を獲得した。21世紀の中小企業にとって、「良い製品を、大量に、安く提供」するという考え方は終焉したようだ。