昨年11月、政権交代の直後に、筆者は拙著『中国経済の真実―上海万博後の7つの不安』の中で、鳩山内閣が直面する次の3つの課題を指摘した。
1.太子党(世襲)首相」のダメージをどう払拭するか
2.経験不足をどう補うか
3.成長戦略をどう描くか
仮にこの3つの課題をクリアできずに失敗すれば、「鳩山氏も三人の前任者と同じように短命政権で終わってしまう」(p235)と予言した。
不幸なことに、この予言が的中した。鳩山政権は上記3つの課題をいずれもクリアできず、僅か8ヶ月で辞任に追い込まれた。「もともと鳩山さんは総理の器ではなかった」と酷評するマスコミがいるが、リーダーの器とは何か?
そもそもリーダーの器とは、リーダー個人の才能、組織統率能力と運営能力、危機管理と対応能力などの総合力を指すと思う。
確かに、リーダーは自分の器以上の仕事ができない。しかし、人間の器は生れ付きのものではないし、永久不変のものでもない。勉強と努力によって、人間の器 を大きくすることはまったく可能である。具体的に中国の胡錦濤国家主席の実例をもって説明しよう。
2002年11月、胡錦濤氏は第15回共産党全国代表大会で総書記に選出された。彼はもともとトウ小平氏のようなカリスマ性を持っていないし、前任の江沢 民氏のように長期にわたり安定的に政権運営を行う実績もない。いわば国のトップの器を、就任当時の胡錦濤氏が必ずしも持っている訳ではなかった。
さらに、同時に選出された中央政治局常務委員9人が、胡氏を除いて全員新人だった。
政治局常務委員は中央執行部であり、国家主席、首相、全人大委員長(衆院議長に相当)、全国政治協商会議議長(参院議長に相当)など要職はすべて、政治局常務委員が担任する。
それまでは江沢民氏、朱鎔基氏など経験も豊かな政治家たちが常務委員を務めていたが、彼らは年齢の関係からすべて退任した。
代わりに新しい8人が常務委員になった。経験不足は明らかだ。実際、当時、胡錦濤氏本人および彼をトップとする中央執行部の指導力を疑問視する声が強かったのだ。
自分の器をどう拡大するか? 中央執行部メンバーの経験不足をどう補うか? 胡錦濤総書記が熟慮した結果、「知的武装」という対策が浮上した。
つまり、政治局委員たちをメンバーとする政治局勉強会の定期開催だ。これまで政治局会議は定期的に開催するが、勉強会の定期開催はなかった。まさに政治分野のイノベーションだ。
勉強会は年間8~10回のペースで開かれる。一回目の勉強会は総書記就任直後の02年12月に開かれ、一期目体制終了直前の07年9月までの5年間に合計44回の勉強会が開催された。
中国が直面する最重要課題が毎回のテーマとして選ばれ、主に次の三つの分野にわたる。
1.国内政治・経済の緊急課題
2.長期戦略ビジョンに関わる問題
3.国際情勢と世界の最新動向
1回の勉強会では、通常2人の講師が講義を行う。講師は、講演テーマとなる分野での第一人者が務める。5年間で、合計89人の学者たちは講師を務める。私の複数の知人や大学院同窓も、この勉強会の講師を務めたことがある。(つづきは来月号にて)