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採用・法律

第102回 『共有者が所在不明の不動産を有効利用したい』

中小企業の新たな法律リスク

 美術工芸品の販売業等を営む鈴木社長には,母、弟と共有している不動産があります。

長い間、有効活用できていなかったのですが、先日、不動産会社より、当該不動産をよい条件で購入したいといっている顧客がいるとの話がありました。

鈴木社長としては、その条件で当該不動産を売却したいのですが、現在、共有者の1人である弟の所在が不明であり共有者本人で任意に売却するということがかなわない状況です。

そこで、何か売却のための方策がとれないか、賛多弁護士に相談しました。

* * *

鈴木社長:先日は、新規取引の件でご相談に乗っていただきましてありがとうございました。お陰様で、順調に取引が進んでおります。

 

賛多弁護士:それはよかったです。

 

鈴木社長:今日は会社というよりは、私個人の話となります。私は、私と母、弟の3人で共有している不動産を持っています。

8年前の父の相続でそれぞれ取得したものですが、立地が特によいわけでもなく、これまで、有効に活用できないままでおりました。

ところが、先日、地元の不動産会社より、好条件で購入を希望している顧客がいるとの連絡がありました。私としては、売却したいのですが、弟の所在がここ数年間不明な状況です。

何か、売却のための方策はあるでしょうか。

 

賛多弁護士:お母様は、この売却に賛同されているのですか。

 

鈴木社長:はい。ですから、問題は行方不明の弟ということになります。

 

賛多弁護士:先ほど、お父様の相続で取得したとおっしゃいましたが、遺産分割は終わっていますか。

 

鈴木社長:はい、終わっております。父の死亡からしばらくの間は、弟とも連絡はとれており、協議によって遺産分割は完了しました。

相続で取得したこの不動産の現在の各人の持分は、母が2分の1,弟と私が4分の1ずつです。

 

賛多弁護士:承知しました。

弟さんの所在が突き止められないことを前提とした場合の方法としては、まずは、裁判によって、本件不動産について共有物分割をする方法があります。

共有物分割とは、共有となっている不動産の共有状態を解消することで、民法には、裁判による共有物分割についての規定があります。

その共有物分割の方法としては3つの方法が挙げられています。例えば、鈴木社長とお母様が当該不動産を共有し、社長とお母様から弟さんにその持分の価格を金銭で支払うといった賠償分割はその方法の1つです。この賠償分割は、令和3年の民法の改正により明文化され、本年(令和5年)4月1日に施行となっています。

ただし、民法上3つの方法につき検討順序はありますが、個別事情にもよることを一応考えなくてはなりません。また、判決による共有物分割のためには、全ての共有者を当事者として訴えの提起をなさなければならず、手続き上の負担はありますね。

 

鈴木社長:その他の方法はないのでしょうか。

賛多弁護士:合意による共有物分割や任意の譲渡をするには、所在不明の共有者がある場合、不在者財産管理人等の選任を経なければならないので、こちらも煩雑な手続きを経ることになります。

これに対し、令和3年の民法の改正で、共有者は、一定の要件を満たしたうえで、裁判所の決定を得ることにより、所在が不明な共有者の不動産の持分を取得できることになりました。この手続きを利用して、所在等不明者の持分を取得することが考えられます。

 

鈴木社長:そんなことができるようになったのですか。

賛多弁護士:はい。こちらも本年(令和5年)4月1日に施行されています。ただ、本件は、共有されている不動産を第三者に譲渡することが目的ですよね。そうしますと、共有者、本件では社長やお母様になりますが、そちらに、いったん、所在が不明な共有者の弟さんの持分を移転し、その後、第三者に譲渡するというのは迂遠ともいえます。

そこで、令和3年の民法の改正で本年(令和5年)4月1日に施行された、裁判所の決定によって、申し立てをした共有者に所在等不明共有者の持分を譲渡する権限を付与するという制度を使うことが考えられます。

 

鈴木社長:私の件でいいますと、私が裁判所にその申し立てをして、裁判所の決定により、弟の持分を第三者に譲渡する権限を付与してもらうということですか。

 

賛多弁護士:そのとおりです。

 

鈴木社長:そうですか。私の場合、この制度を利用できるということでしょうか。

 

賛多弁護士:本制度は、不動産が数人の共有に属する場合において,共有者が他の共有者を知ることができず,又はその所在を知ることができないときに利用できる制度ですから、この点、本件に利用できそうです。

ただ、この制度で申し立てた共有者に認められる譲渡権限は、所在等不明共有者以外の共有者全員が持分の全部を譲渡することを停止条件とするものであり、不動産全体を特定の第三者に譲渡するケースでのみ行使可能ということになります。

すなわち、一部の共有者が持分の譲渡を拒む場合には、条件が成就せず、譲渡をすることができないということになります。この点、社長の件では、社長が申し立て、お母様は社長が売却しようとする者に売却することに異存はないわけですから、この条件は成就することになります。

 

鈴木社長:なるほど。

賛多弁護士:この制度の効果としては、所在等不明共有者の持分は、申立てをした共有者がいったん取得するのではなく、直接、譲渡の相手方に移転することになります。

そうそう、最初に遺産分割が完了しているのかお聞きしたのは、遺産として共有されている場合には、相続開始から10年を経過していない場合、裁判所はこの裁判ができないからです。しかし、本件は、この点も問題ないですね。

 

鈴木社長:つまり、私の場合は利用できるということですね。

 

賛多弁護士:はい。

 

鈴木社長:ただ、そのようなことをして、弟が現れたとき、家族間で紛争になるのではないか心配です。弟は持分があったにもかかわらず、売却代金を一切受領できていないわけですから。

 

賛多弁護士:その点については、法律で手当てがなされています。所在等不明共有者であった弟さんは、譲渡権限を行使した共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができますので、それで納得していただくということになると思います。

 

鈴木社長:それなら説得の余地はありそうですね。ところで、この制度の具体的な手続きの流れは,どのようになるのでしょうか。

 

賛多弁護士:社長による申立・証拠提出、3か月以上の異議届け出期間・公告の実施、弟さんのための裁判所が定める額の金銭の供託、弟さんの持分の譲渡権限を社長に付与する裁判、という流れになります。

 

鈴木社長:わかりました。この方法で進めたいと思います。こちらの裁判手続き等については、先生にご依頼したいと思います。

 

賛多弁護士:承知いたしました。不動産の売買には、この裁判を得た上で、別途、裁判外での売買契約等の譲渡行為が必要です。譲渡行為は、裁判の効力発生時(裁判が確定した時)から原則2か月以内(裁判所が伸長することは可能)にしなければなりませんので、この点、売買契約をされるにあたり、ご注意ください。

 

鈴木社長:わかりました。それでは、よろしくお願いいたします。

* * *

 土地建物の利用の円滑化を図るため、令和3年の民法改正で、共有に係る規定の見直しが行われました。そこでは、共有物の利用の促進に係る改正のほか、共有関係の解消を促進する改正がなされました。このうち、本稿では、先月1日(令和5年4月1日)に施行された共有関係の解消促進のための改正である①裁判による共有物分割、②所在等不明共有者の不動産の持分の取得・譲渡について取り上げました。

所有者不明土地、共有不動産等を所有されている方は、その他の令和3年の民法改正の概要についても知っておくことは、資産管理という視点から有用ではないかと思います。 

参考資料(法務省HPより)
・令和3年民法・不動産登記法改正、 相続土地国庫帰属法のポイント(法務省民事局)(本稿で取り上げた上記①②については36~38頁)
https://www.moj.go.jp/content/001377947.pdf

 
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 堀 招子

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