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第九十四話 「自分が楽しんでいるか」「いかに楽しむか」(永井農場)

社長の口ぐせ経営哲学

30代から40代の若手が経営する農業法人の動きが注目を集めている。その中の一つ、地域の農業全体の活性化と自社の農産物のブランド開発を進めているのが、農業法人の永井農場(長野県東御市)である。米作りと酪農、食品加工などに積極的に取り組み複合経営を推し進めている。個別経営の部で「日本農業賞」(JA全中)の大賞に選ばれるなど、新しい農業法人として注目を集めている。


大賞の受賞理由が「中山間地における地域と共生した大規模で高度な複合経営の実現」である。地域にあった自分たちの農業を打ち出していることが大きく評価されている。長野県の東北部に位置し、浅間山麓に広がる南向き緩斜面で、晴天率が高い雨の少ない気象条件のため、稲作と酪農に適した地域である。良い米ができる地域と専門家の間では知られ、巨峰の栽培でも有名な地域である。


同農場が農産物のブランド化を始めたのが97年のこと。餅加工事業として、永井農場で収穫された米100%を使用した、昔ながらの杵つき餅「永井農場の手づくりもち」の販売を行ってからである。現在、8種類以上のせんべいを製造・販売している。酪農を活かしてジェラートショップの直営店を開業。自社農場の牛乳だけを使っているショップは珍しく、農業スタッフがゼロから商品開発に取り組んでいる。


ジェラートは、このショップだけの販売で、テイクアウトも通信販売もしていないが、永井農場だけの味にこだわり、収穫、加工製造、直売を進めている。ジェラートを提供するだけでなく、永井農場の米、野菜、果物、そのほか農産加工品を販売している。このショップは永井農場のアンテナショップとしての役割を持つ。ブランド開発はさらに、自社生乳のモォツァレラチーズを始め、地元産のワイン作りにも広げている。


同社の永井進社長(41歳)は「生産したものがお客さまに届くまでがこれからの農業」という考えを持ち、「農業の自立を目指し、地域の足元からパートナーづくりを進め、ローカリズムの実現を考えています。この農場から情報を発信していきたい」と語る。永井農場が扱っている米は、自家製のたい肥を混ぜ込んだ水田で育てた「永井農場の米」のほか、周辺農家が天日干しをした「信州自然乾燥米」、「米ぬか」などがある。


「よろこばれる」を社是に掲げている永井農場は、「いい会社」を目指している。永井社長は社員スタッフに「自分が楽しんでいるか」「いかに楽しむか」を訴え続けている。自分たちが楽しんで仕事ができることが必要、と考えている。これからの農業ビジネスは大きく変化するだけに、成長を続ける永井農場から目が離せない。
 

                                                    上妻英夫

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