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人事・労務

第27話 新卒初任給の高騰にどう対処したらよいか?

賃金決定の定石

 まもなく2024採用が本格的にスタートします。

 

 既に先行して動いている企業もありますが、政府・経団連の定める就活解禁日が3月1日であり、ナビサイトでの情報公開もそれ合わせて開始されますので、今まさにスタートの号砲を待っている状態といえるでしょう。

 

 今年の春季労相交渉は、物価上昇によって実質賃金が減少していることもあって、例年になく賃上げの動向が注目されていますが、大手企業の中には連合要求の5%を上回る大幅な賃上げ宣言を出している会社があり、注目を集めています。

 

 このような従来にはない高水準の賃上げ宣言には、人材獲得競争が激化する中で、新卒採用・中途採用を有利に進め、優秀人材を確実に確保したいとの企業意思が感じられます。

 

 新規学卒者(大卒)初任給に限ってみても、大幅な引き上げを図る会社が少しずつ増えています。

・三井住友銀行:205,000円から255,000円へ(5万円アップ)

・ユニクロ:255,000円から300,000円へ(4万5千円アップ)

・NTT:219,000円から250,000円へ(約3万円アップ)

・JR東日本:225,630円から233,630円へ(8,000円アップ)

など

 

 新卒採用に意欲的な会社のほか、人材獲得が難しい業界においても初任給を一気に引き上げて、人員を確保しようという動きが広がっているようです。

 

 ただし、このような動きは今のところ大企業の一部に留まっていますし、中小企業にまで広がっていくかといえば、恐らくそうはならないでしょう。なぜなら、採用初任給を大幅に引き上げる際には、その年の新入社員のみならず、先に入社している先輩社員との調整を図る必要があり、30~32歳程度まで年次間の賃金バランスを崩さないようにしようとすると、かなりまとまった調整原資が必要となるからです。

 

 多くの中小企業にとっては、「採用初任給の値上げ競争」の中で戦っても、とても勝ち目はありません。では、このような大幅な初任給引上げを実施する大手企業に対し、どのような対抗手段で考えられるでしょうか? 

 

 採用試験を、お見合いに例える人がいますが、正社員という長期雇用の枠組みの中で採用される以上、やはりまずは自社をよく知ってもらうことに尽きるのではないかと思います。

 

 より多くの求職者に関心を持ってもらうためには、自社のHPやナビサイトにおいて、経営理念やパーパスを明示し、自社の存在意義や企業活動の目的が分かりやすく伝えることが何より重要です。就活生の中にも、社会への貢献が実感できる仕事に就きたいと考える者は数多くいます。そして、SDGsへの取り組みや社会貢献などに関心を寄せたり、ダイバーシティへの姿勢、女性活躍推進への取り組みなどに注目したりする層もあることでしょう。

 

 近年の新入社員意識調査を見ると、スキルや知識を身に着けたいという想いは持っているものの、定年まで現在の会社で勤めたいという人は全体の1割強、どちらかといえば定年まで勤めたいと合わせても3割に過ぎません。

 

 先の見えないVUCAの時代。Z世代の新入社員は、「自身の成長のためにどんな職務経験ができるか」、「キャリアアップが期待できる会社なのか」、「身に着けた知識やスキルが自身の資産となりうるか」などを、思いのほか冷静に受け止めているようにも見えます。社会的な意義があり、職務経験が自身の成長につながる仕事…です。

 

 こうした世代に対して、どんなメッセージが有効なのでしょうか?

 

 私たちは、日中の活動時間の大半を仕事に従事して過ごしています。毎日、脳も身体も活発に働くことのできるメインの時間帯を仕事に充てているのですから、その仕事にやりがいがあり、仕事時間が充実していることが働く者にとっての幸せに直結していることは、いうまでもありません。

 

 社員がいつもいきいきと働いていて、社会への貢献が第三者の目にも明らかであって、さらに社員が「働きたい」、「学びたい」、「経験したい」と願った時にそれに応えてくれる仕組みや制度を整えている会社なら、これからも採用に強い会社であり続けることでしょう。

 

 言い換えれば、中小企業であって、賃金水準が特別に高いということではなくても(もちろん、採用初任給の設定額が世間並みに達していなければ、確かかに応募者は来ないかも知れませんが・・・)、このような条件を満たしている会社には自ずと人材が集まってくるのです。

 

 自社の強みを今一度確認して、分かりやすい言葉で伝えていただき、将来が有望な人材の獲得へと繋げていただきたいと思います。

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第28話 転居を伴う人事異動と賃金施策次のページ

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