昨年11月に亡くなった作家、伊集院静氏。
その著作はもちろん、自由気ままな生き様は多くの読者の心を掴み、
数々のベストセラーを生みました。
経営者、リーダーにも人気が高い作家の一人です。
そんな伊集院氏の著作(遺作)が、次々発刊されていますが、
今回紹介したいのは、
これは、伊集院氏による、あの英雄ナポレオンの生涯を綴ったもの。
ナポレオン関連の本は、この世になんと30万冊以上も出ているとのことですが、
その中から厳選したものや資料を元に、時にゆかりの地を旅して彼の足跡をたどり、
時にナポレオン研究家たちに会って話を聞いたものなどが、一冊に収められています。
なぜ今ナポレオンか?
ナポレオンを知る、考えることに、どんな意味があるのか?
まず、本書の魅力となっているのは、伊集院氏が「ナポレオンのファンではない」ということ。
贔屓目のない、一歩引いた冷静な見方によって、誰でも文章に入りやすくなっています。
ナポレオンについて、伊集院氏は次のように語ります。
「貧困な家庭で育ち、賢母に庇護されながら島を出て兵学校へ入り、
卒業した後も彼を迎えてくれる舞台はなく、
うす汚いフロックコートを着てパリの街を徘徊していた
いなか青年が突如歴史の檜舞台に登場する。
それからの彼の出世ぶりは奇跡に近い」。
そして、
「この奇跡こそ大衆が、歴史家が、権力者たちが何よりも望むものである。
奇妙なことに権 力者はナポレオンに己を投影したいと望み、
歴史家たちは世界が一人の人間の個性によって驚くような変遷をたどることを学び、
そして大衆はひとつ生き方が嵌り込めば、
私たちでさえ英雄になれるという見果てぬ夢を具現化してくれた皇帝に酔いしれるのである。
おそらくナポレオンこそが時代とは何か、歴史とは何か、夢とは何かを自ら証明した存在なのだ」
と語ります。
この何とも魅力的な言葉のとおり、ナポレオンを知ることで、
どれだけ多くのことがわかるのか、と思わずにはいられません。
実際、本書を読み進めることで、次々と見えてきます。
ナポレオン法典が近代社会の礎となったのは有名な話ですが、
実は競馬やルーヴル美術館にも大きな影響を与えたことなど、興味深いエピソードが続々。
また、酒やギャンブルを愛した伊集院氏ならではの視点からの勝敗論は、必見!
特に経営者、リーダーは、この一冊をきっかけに、
多くをつかむことができるはず!
この機会に、ぜひ読んでみてください。
尚、本書を読む際に、おすすめの音楽は、
『ベートーヴェン:交響曲第3番《英雄》、《エグモント》序曲』(指揮:カール・ベーム、演奏:)です。
この交響曲第3番《英雄》は、
ベートーヴェンが民衆の英雄ナポレオンに共鳴して手掛けた曲として知られています。
ナポレオンはベートーヴェンより1歳だけ年上であり、同世代。
ナポレオン全盛期の激動のヨーロッパを生きたベートーヴェンの名曲を
巨匠ベームの指揮、ウィーンフィルによる名演で、
本書と合わせてお楽しみいただければ幸いです。
では、また次回。