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戦略・戦術

第五十八話 店のシャッターを看板代わりにしてコミュニケーションを図る焼鳥屋 その2

中小企業の「1位づくり」戦略

効果のあった集客方法は採用にも応用できる!

 大阪の東岸和田市で営業する焼鳥屋さん「彩鳥屋てっちゃん」は、顧客インタビューをし、集めた情報を分析して集客方法を考えました。

それが、店頭に掲げたでかい貼り紙でした。この貼り紙が、お客様に親近感を持っていただけるコミュニケーションツールの役割を果たし、来客数が増えていきました。

 

 店主の早崎さんは「このやり方はそのまま人材採用に使えるはずだ!」と考えました。

そして、集客と同様にまず、スタッフのインタビューから始めました。

 

 スタッフからインタビューした情報を集めてみると、辞めずに長く働いてくれているスタッフには、「気遣いのできる人」、「人と話すのが好きな人」など、いくつかの共通項を見つけることができました。

 

 その中で一番注目したのは「家族と仲がいい人」でした。

 

 親御さんがアルバイトをしている子供の様子を見にきて、うちの子をお願いしますと言って、食事をして帰るようなこともあったと思います。

 

●親(家庭)

●店

●本人

 

 この3者のコミュニケーションをより良くすることが、採用に於いて何より重要なことだと早崎さんは考えました。

 

 次に、なぜこの子たちはうちの店を選んだのかの情報を分析しました。

すると、選ばれている理由が意外なところだったことが分かりました。

 

 給料が高いから自分の店を選んだという意見は全くありませんでした。

彩鳥屋てっちゃんが選ばれている理由は、3つにまとめることができました。

 

1 土日の連勤が無い

 サービス業は基本的に、お客様の来店ピークは週末になり、売上を増すためには、人の確保が欠かすことはできません。ですから、サービス業では土日連勤が常識化しています。普通サービス業で働く人は土日の勤務を休むことは考えられません。

 

 しかし、同店では土曜日、日曜日のどちらかは休めるようにシフトが組まれているのです。

 

 週末は、彼氏、彼女とデートするとか、仲間と旅行へ行くなど、やりたいこともたくさんあるのに、店の都合で無理に仕事をさせるとスタッフの意欲が下がり、仕事が長続きしません。

こうした配慮から土日の連勤がないシフトを組むようになりました。

 

 この土日の連勤がないことがとても重要で、働きやすいと学生さんから選ばれている事が分かりましたと店長は言います。

 

2 学校のテスト期間を考慮している

 大学4年生になって単位が足りないから卒業できないとなると、決まっていた就職も取り消しになってしまいます。出席日数に決まりのある授業ならば、欠席が規定数を超えたら確実にアウトです。

 

 遊びやアルバイトで欠席制限を超えて単位が足りないことに気づいたところで、もう後の祭りです。バイトばかりして学校が疎かになっているという人を、これまで何人も見てきました。そもそも学生の本分は勉強です。僕の店ではテストや単位、出席日数も考慮してシフトをつくり指導しています。何よりテスト期間を考慮してシフトを組んでいます。

 

 実は、こうしたシフトの組み方が安心して子供を任せられると親御さんにも評価されていたことが分かりました。早崎さんは学校の単位を確認し、アドバイスまでしています。このように学業を最優先する働きが、ほかのアルバイト先とは違うと、これも学生に現れている理由の一つでした。

 

就職活動を支援している

 働く意義や目的をしっかり伝えることが僕の役割ですと早崎さんは話を続けました。

 

 僕らの仕事は、料理やドリンクを作ってお客様の所へ持っていくことが仕事ではありません。来店してもらったお客様に楽しいと喜んでもらえる空間を作ることが仕事です。

 

 家族の大切な時間を喜び、ご満足いただけるように、仲間と語る時間をより楽しく演出できるようにするのが僕たちの役割です。つまり、僕たちが楽しく仕事ができるかどうかが一番大事なのです。

 

 何のために仕事をしているのか、働く意義や目的を面談の時に時間をかけて伝えていると言います。また、その考えは親御さんにLINEで早崎さんから直接届けています。お預かりしたお子様は、僕が必ず成長させますと最後に添えて。

 

 「この店で働いたことが就職活動に役立った」という意見もインタビューの回答にたくさんありました。

 

彩鳥屋てっちゃんの人材採用戦略三大戦略

 ここでちょっとまとめてみましょう。

 

 店主は集客のやり方を学び、お客様インタビューの真似をして人材採用で応用しました。

辞めずに長く働いてくれるスタッフの話から、人材採用戦略を考えました。

 

彩鳥屋てっちゃんの人材採用戦略三大戦略

●客層
親と仲がいい人

●商品・当店が選ばれる理由
土日の連勤がないこと
学校のテスト期間を考慮していること
就職活動を支援しているここ

●エリア
地元で育った人

 

 スタッフへのインタビューから店の強みがはっきりしました。

 

 求人募集もランチェスター法則を応用して人材採用に活かせると早速このような貼り紙を店頭に出しました。

 時給は表記しません。貼り紙には両親に対して大切な子供を預かる店主の思いが書かれています。親と子、そして私を含めた三者の関係づくりです。

 このでかい求人広告は地域でもとても評判で、一気に10名のアルバイトが応募してくれることもあるといいます。また、アルバイト募集は常時行っておりません。学生が就職したときや留学するときなど、求人募集の広告が貼り出されるのは、はっきりした理由があるのです。

 

 店頭全体を使った求人広告は、コミュニケーションツールです。時給は絶対に表記されず、常に内容は更新されています。ある時は一日体験アルバイトの募集広告を貼りだしてみたり、時にはアルバイトだけでなく、正社員や独立希望者を募ることもあります。

なぜでかい貼り紙をするのかの理由は、小さな張り紙だと呼んでくれないからです。

 

 どの店も募集ポスターも小さいのが多くて、

①そもそもその存在を知らない。

②見つけたとしても、小さすぎて読めない。

③店の前まで読みに行くのはちょっと気まずい。

ですから、ある程度の距離から読んでもらえるようにしています。

ちなみに。貼り紙は、A4が16枚の大きさです。

 

 でかい求人 募集の張り紙はアルバイトを検討している人だけのものでなく、親御さんへの想いがメッセージに込められています。 冬のアルバイト採用を無事に終えたことをわざわざでかい張り紙に書いているのは、数あるお店の中から選んでいただいた感謝の気持ちとアルバイトを検討してくれている方への報連相です。

 

早崎さんが考える人材採用のポイント

 「地域にもよるかもしれませんが、飲食業界は人手不足だとは考えていません。

 大型店舗と違い1回の採用は数人程度です。もし人が集まらない場合は、やり方が悪いのではないかと自分を疑っています。

 そしてもう一つは求人を人任せにしないということです。ネット掲載や地元の求人誌、ハローワーク等さまざまな求人媒体がありますが、僕はどれも試したことはありません。

 試行錯誤の結果でかい貼り紙の求人が一番効果的だと考えています。

 集客は頑張っているお店も、なぜか求人は人任せにしているところが多いように思います。

 いろいろと試している中で、小さなお店は集客も採用も似ているなあと思うことが多いです。」

 

 飲食業の現場での人手不足感が強まるなか、待遇の改善で採用を有利に進めようとするお店は多いのですが、絶対条件を設けて採用基準を高めるのは少数派です。

彩鳥屋てっちゃんは、採用に対して妥協はありません。

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