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危機への対処術(2) 家を二分して形勢を見る(真田昌幸の決断)

指導者たる者かくあるべし

 犬伏の別れ

 戦国の世を巧みに泳ぎまわる真田昌幸(さなだ・まさゆき)に最大の決断のときが訪れる。最高の後ろ盾とたのんだ太閤豊臣秀吉の死と、その後の天下を二分する形勢にどう対応するか。1600年(慶長5年)、豊臣政権の簒奪(さんだつ)を虎視眈々とねらう徳川家康が会津の上杉征伐に軍を動かしたすきに石田三成が徳川討伐の旗を掲げて大坂で挙兵したのだ。関ヶ原合戦の序盤が幕を開けた。


 武門にとっては領地と家を守るためには“勝ち馬”に乗ることが必須である。味方した大将が敗れれば、家は廃され領地は没収となる。


 昌幸は、会津に向けて北上する家康軍と合流するため、下野(現・栃木県)の犬伏(いぬぶし)に着陣していた。そこへ三成から書状が届く。「徳川は逆賊である。太閤様の遺子秀頼様を奉じる西軍(三成方)につかれたし」。どうしたものか。昌幸は同道していた息子の信幸(信之)とその弟の信繁(幸村)を呼び寄せ、人を払って告げた。


 「家康にも秀頼にも恩顧はないが、ここはひとつ、三成方につこうと思う」


 信繁は即座にこれに賛同するが、信幸の意見は違った。「すでに家康の動員に応じて出陣に応じた以上は、今さら逆心を抱くのは不義というものです」。わが意を得たりとばかりに父は息子ふたりの議論を引きとり言った。


 「信幸のいうことにも一理はあるが、こういう岐路では家を盛り上げることを一義に考えるべきだ」。そして結論は。昌幸と信繁は石田方に、信幸は徳川方につくこと、つまり家を二つに分けることを宣言する。手勢の将兵も二手にわけ、親子は敵味方に別れて犬伏を後にする。

 

 昌幸の深謀遠慮

 昌幸の心のうちに分け入って筆者なりに考えれば、こういうことだろう。


 〈両軍のどちらが勝つかはわからない。家康はずるい男だ。味方したとしても上田で真田に一敗地にまみれた恨みからまともな褒賞(ほうしょう)は見込めない。それに比べれば軍事の素人である三成の方がくみし易い〉。さらに、万一、家康が勝ったにしても、信幸は、徳川重臣の本多忠勝の娘を娶っているから悪いようにはしないだろう、との読みもある。


 信州上田の居城に戻った昌幸は、三成と戦勝後の褒賞について交渉し、信濃、甲斐の大大名に取り立てることを約束させた。


 信幸はというと、家康から、「父と弟が裏切ったにもかかわらず、お前が私に忠義を尽くしてくれるとはありがたい」として、戦勝後に父・信幸の所領を与えるとの約束をえた。いずれにしても真田家として失うものはない。

 

 永続する真田家

 その後のことはご存知だろうから概略だけを書く。昌幸、信繁は、上田城に籠ってゲリラ戦を展開し、中山道を関ヶ原へ急ぐ徳川秀忠軍を足止めさせて決戦場に遅参させる働きをみせた。関ヶ原での家康勝利後、昌幸と信繁は高野山麓の九度山に配流幽閉される。本来、死罪となるところを配流で済んだのは、信幸の嘆願によるもの。敵とはいえ、信幸は二人に生活費用を援助し続けた。


 昌幸は幽閉先で死去するが、信繁は十四年の雌伏のあと密かに抜け出して、大坂城に籠る秀頼軍に参加し、赤揃えの兵を率いて奮戦する。1615年の大坂夏の陣では、天王寺茶臼山の戦いで、家康の本陣に突撃して旗本衆を蹴散らして、家康の眼前まで迫った。追い詰められた家康は切腹まで覚悟したとされ、信繁は父親譲りの武威を見せつけて果てた。


 信幸は、上田から松代に改易される嫌がらせを受けながらも徳川に忠義を尽くし、幕末まで続く真田家の家門を護ることになる。93歳まで生きた信幸には辞世の歌が残る。


 何事も移れば変わる世の中を夢なりけりと思いざりけり(全て変転する目まぐるしいこの世も夢だったとはとても思えない)


 それは、家を二つに分けてまで家を護り武門の維持をみせた父・昌幸の思いでもあったろう。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※参考文献
『真田昌幸』柴辻俊六著 吉川弘文館
『真田三代』平山優著 PHP新書
『戦国武将に学ぶ「危機対応学」』童門冬二著 角川SSC新書

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