■富士山の麓、水のパワースポット
水のエネルギーがみなぎるパワースポットと知られる「柿田川湧水群」は、富士山の雪解け水が湧き出ていることで知られる。
湧水群を見学できる柿田川公園内は、街の喧騒と切り離されており、緑と清水があふれる自然環境に心を奪われる。園内を流れる川は、これまで見てきたどんな川よりも澄んでいる。鏡のように周囲の木立を映す水面は感動的な美しさで、見ているだけで心が浄化されていくようだ。
園内に整備された展望台から川をじっと見ていると、コポコポと砂を巻き上げながら水が湧きあがる箇所がいくつもあることに気づく。実は、富士山に降った雨や雪が長い年月をかけて溶岩群の中を流れ抜け、この地で湧き出し、川をつくり出しているのだ。湧水量は1日100万トンで、東洋一の規模だといわれる。
なかでも、湧水のパワーをもっとも強く感じられるスポットは、第二展望台から覗くことができる巨大な筒状の井戸。昔の工場の取水井戸だという。
筒の底からこんこんと清らかな水が湧き出しているのを見ていると、思わず吸い込まれそうになる。「許されることなら、この井戸に浸かってみたい」とバカなことを考えてしまうのは温泉マニアの性だ。
■1℃ずつ温度が異なる湯船
柿田川湧水群から南東10キロほどの距離に位置するのが、駒の湯温泉「源泉 駒の湯荘」。雑木林に囲まれた一軒宿だ。住宅が点在する田園地帯から少し奥に入っただけなのに、周囲はひっそりとしていて秘湯の雰囲気が漂っている。
敷地内に内湯や露天風呂など男女計15個ほどの湯船が存在しているのは、毎分200リットルという豊富な湧出量がなせる業である。
数ある湯船の中でも秀逸なのは、男女別の内湯(入替制)。5つの小さな湯船が並ぶ浴室に注がれる湯は37~42℃で、それぞれの湯船の泉温が1℃ずつ異なるように設定されている。そのこだわりぶりには舌を巻く。内湯は地元の常連さんにも人気があるようで、ひっきりなしに入浴客が出入りしている。
5つの湯船のなかでも、もっとも気に入ったのは、加温をすることなく、源泉が100%かけ流しにされている37~38℃の湯船。ちょっとぬるめの湯だが、ゆっくりと浸かっていると、心の緊張がみるみる解きほぐれていくのがわかる。
ちなみに、37~38℃の泉温は、脳と体をリラックスさせる「副交感神経」という自律神経を刺激するといわれている。一方で、42℃以上の熱めの湯は、精神と緊張を高ぶらせる「交感神経」を刺激する。だから、朝はシャワーで熱めの湯を浴びると、元気に一日のスタートを切ることができ、夜の就寝前はぬるめのお風呂にゆっくり浸かると、快適な睡眠ができるといわれている。
■直接、投入される高鮮度の湯
駒の湯荘の湯船を満たすアルカリ性単純温泉の透明湯は、一見なんの変哲もない普通の湯に見えるが、わずかに硫黄の香りを放ち、スベスベとした肌触りが気持ちいい。透明感は、柿田川湧水に負けていない。
湯船に浸かってから数分たっただろうか、ある事実に気づいた。どの入浴施設にもあるはずの湯口が見当たらないのだ。温泉が湯船に落ちるドボドボという音が聞こえない。しかし、湯船からは透明な湯がたえずあふれだしていく。
実は、湯船の中から源泉が投入されているのだ。一緒に入浴していた常連のおじいさんいわく、「源泉の湧く井戸から湯船まで空気に触れることなく、直接注がれているから湯の鮮度がいい」とのこと。たしかに、温泉は外気に触れると酸化し、劣化してしまう。生まれたままの状態に近い新鮮な温泉に浸かっているのだから気持ちいいはずだ。
湯船から一定のペースであふれだしていく湯をボーッと眺めていたら、柿田川湧水群で見た取水井戸の光景を思い出した。「なんだか柿田川の井戸に浸かっているみたいだ」と空想すると、ますます幸せな気分になるのだった。