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採用・法律

第121回 その取引、下請法違反では?

中小企業の新たな法律リスク

下請法の中身はご存じですか?

Webサイトやアプリケーションの開発を手掛けている神田社長は、業績が好調であったため、更なる事業拡大のため、増資による資金調達を行いました。

その後、事業拡大に伴いソフトウェア開発を外注することになったため、顧問弁護士の賛多弁護士に外注先と締結する予定のソフトウェア開発委託契約書の確認を依頼したところ、賛多弁護士から電話が掛かってきました。

* * *

賛多弁護士:神田社長、先日御依頼いただいた契約書の件でお電話したのですが…社長は、下請代金支払遅延等防止法、いわゆる下請法は御存じですか?

 

神田社長:下請法ですか。元請けが立場を利用して下請けから納品された製品を理由なく返品することや、「歩引き」とか「リベート」という名目で発注後に下請代金を減額することを禁止している法律ですよね。

 

賛多弁護士:そのとおりです。下請法は、下請取引の公正を図り、下請事業者の利益保護を目的とする法律で、社長のおっしゃった返品や下請代金の減額等11類型の行為が禁止されているほか、親事業者の義務として書面の交付や下請代金の支払期日を定めること等が求められています。下請法は、取引事業者の資本金を踏まえて適用の有無が判断されるのですが、たしか御社は最近増資されましたよね。

 

神田社長:はい。現在の資本金は1500万円です。その節は賛多先生にもお世話になりました。

 

賛多弁護士:なるほど。となると、今回の契約書の作成に当たっても下請法との関係に注意しないといけないですね。資本金1000万円超の法人事業者と資本金1000万以下の法人事業者又は個人間の取引には、下請法が適用される可能性があります。

 

神田社長:そうなんですね。てっきり大企業にしか関係のない話かと思っていました。お願いしていた契約書は大丈夫でしょうか。

 

賛多弁護士:まず、委託料金についてですが、契約書では「別途協議して定める。」と記載されていますが、具体的な金額は決まっていないのですか?下請法では、元請けに書面交付義務があり、書面の記載事項として具体的な金額を記載することが求められているのですが…。

 

神田社長:ソフトウェア開発の場合、開発までどの程度の時間や費用が掛かるか分からないので、最初から金額を明示することは難しいんですよね。もちろん、ソフトウェア開発仕様書には、委託料金の算定方法として、技術者ごとの時間単価×所要時間といったものは記載していますよ。

 

賛多弁護士:確かに、物の製造委託のように1個当たりの単価が決まっているようなものではないですからね。具体的な金額の算定方法を記載してもよいとされていますので、「別途仕様書に定めるとおりの算定方法により算出する。」と修正しておきますね。

 

神田社長:承知しました。よろしくお願いいたします。

 

賛多弁護士:次に、検収期間について「ソフトウェアの納入後1か月間」、代金支払時期について「毎月末検収締切、翌月末払い」と記載されている点です。下請法では、元請けは委託物の給付の受領から60日以内に代金を支払わなければなりません。

 

神田社長:そうですか。ですが、今の契約書でも、「毎月末締、翌月末払い」なので、60日以内に代金を支払ったことになるのではないですか。

 

賛多弁護士:それが、60日という支払期限の起算点は、下請事業者からの給付、今回の契約の場合、ソフトウェアの「受領日」が基準となるのです。したがって、例えば、5月15日にソフトウェアが納入された場合、6月1日に検収完了した場合は、代金の支払いは6月末検収締切、7月末払いとなりますので、60日を超えることになってしまいます。

 

神田社長:しかし、ソフトウェア開発の場合、納入されたソフトウェアが仕様を満たしているかをすぐに確認することが難しく、どうしても時間がかかってしまいます。

 

賛多弁護士:そうですよね。そのため、ソフトウェア開発委託のような類型の取引では、元請けが納期前にソフトウェアを受領した場合、当該ソフトウェアが一定水準を満たしているか確認した時点を支払期限の起算点とすることが可能となっています。この場合、当事者間でのあらかじめの合意が必要です。ただ、この場合であっても、納期が到来した時点で、ソフトウェアが元請けの支配下にあれば、確認の終了如何に関わらず、納期が支払期限の起算点となってしまいます。

 

神田社長:あくまでも、納期前に受領した場合について例外を定めているだけなんですね。

 

賛多弁護士:そういうことです。それでは、例外が適用できるよう同意文言を追加しておきますね。

 

神田社長:ありがとうございます。弊社のような規模の会社でも下請法の適用があるとは思わず、あやうく下請法違反の契約を締結するところでした。

* * *

下請法の適用の対象となる下請取引については、①取引当事者の資本金、②取引内容という観点から定められています。

自社が下請けとなる取引だけでなく、自社が元請けとなる取引、孫請けが存在する取引についても、下請法の適用がある場合がありますので、契約時には上記2つの観点からの確認をすることが必要です。

 

※参考資料:公正取引委員会HP 下請法とは | 公正取引委員会 (jftc.go.jp)

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 種池慎太郎

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