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国のかたち、組織のかたち(6) カリスマ亡き後の体制維持(石田三成)

指導者たる者かくあるべし

 豊臣秀吉の死と遺言

 武家による天下統一を成し遂げた豊臣秀吉は病に倒れ、慶長3年(1598年)8月12日、あの世に旅立った。死期を悟った秀吉は亡くなる一週間前に徳川家康ら有力大名五人(五大老)にあてて遺言を残した。

 「かえすがえす、秀頼(ひでより)のことを頼む。五人の衆(五大老)を頼みとしている。詳しくは五人の者(石田三成ら事務執行方の五奉行)に申し渡してある」

 五大老と五奉行は、秀吉が晩年に授かった男子、秀頼を後継者として支えるように作り上げた指導体制だった。とはいえ、秀吉が死んだ時点で秀頼はまだわずか6歳。全国の大名たちが秀頼に忠誠を尽くすかどうか、不透明だった。そこで、徳川家康、前田利家、毛利輝元、上杉景勝、宇喜多秀家という大大名の協力で政権を運営させようという集団指導体制だ。「協力」というのは建前で、実際には誰か一人に権力が集中して政権を簒奪する動きに出ないように牽制させる苦肉の策だった。

 集団指導体制の軋み

 秀吉の側近衆である実務家の五奉行は、その監視役だった。秀吉に可愛がられた石田三成にしてみれば、当面、集団指導体制で時間を稼ぎ、秀頼の成人を待ちながら中央集権体制の整備と強化が目標となった。

 五大老は、もちろん「秀頼さまを奉じて必ずお守りする」と表明するが、それぞれに思惑はある。口には出さないまでも、「秀吉が消えた今こそ天下を狙う好機だ」とほくそ笑んでいる。「豊臣家いのち」とただ一念の三成の目からすると、最も危険なのが東国に最大の所領をもつ家康だった。現実に、大名間の婚姻関係を見合わせるとの申しあわせを無視して家康は自在に閨閥を広げ勢力拡大を図っている。いくら申し合わせがあっても、巨大カリスマが消えれば、やりたい放題の無秩序状態となる。

 強大な創業者の抑えがなくなった後の組織を維持するカギは、システムとしての組織を強化することだ。三成もそう考え行動した。

 秀吉が伏見城で病床についた直後から、三成は、大坂城の改修強化に乗り出す。秀頼の“宮城”としての整備だ。

 彼が考える盤石の豊臣体制は、秀頼を聖なる王として担ぎ、周囲に有力大名を、公家衆として侍らせる。擬似朝廷体制の構築だった。

 それに挑戦する家康は、あえて協定を守らず、三成を挑発する。その行き着く先が関ヶ原の戦いという暴力対決に誘い込むことだった。

 権力簒奪者としての徳川家康

 三成には天下安定の秘策はもう一つあった。秀吉が仕掛けた無謀な朝鮮侵略軍の早期撤兵だった。各地の大名たちは、二度にわたる無謀な対外戦争で財政的にも疲弊している。その不満を払拭させてこそ豊臣政権は安定する。朝鮮遠征軍の大将格、小西行長を通じて停戦交渉を進め、帰還する兵を迎えるために九州に出向く。

 家康は家康で、加藤清正らの「三成こそ無謀な戦いを仕掛けた張本人であるのに責任を取らない」という不満を聞き、なだめ役にまわることで理解者を装いシンパづくりに奔走する。

 結果として、関ヶ原に敗れた三成は、斬首されて果てる。徳川の政権が樹立される。家康には、最初から秀頼を奉じる気持ちなどない。豊臣家から天下を簒奪する一念で執念深く謀略を凝らし続けたのだ。

 「姦臣」「謀臣」「口が上手く、人に取り入り、欺くのが得意」。こうした三成の負の評価は、江戸時代に形作られたものだ。勝者による歴史であって客観的ではない。彼が築こうとした「秀吉後の日本」がどんなものであったか。じっくりと考えてみたいものだ。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

(参考資料)
『石田三成伝』中野等著 吉川弘文館
『日本の歴史 15 織豊政権と江戸幕府』池上裕子著 講談社学術文庫

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