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- 第18号 ”ITソフトウェア業”のための全員営業の活用法【実践編】
第18回コラムは、ITソフトウェア業が、技術力のあるエンジニアを活用して営業強化するポイントをお話します。
「営業なんてやったことないので、できません」
かつて、あるIT会社のコンサルティングの最中に、社長同席の会議で、開発部門から出てきた発言です。
エンジニアを活用して営業強化しようとする際、こういう勘違いが起きるのには理由があります。
一つは、営業という言葉が持つ先入観です。
営業をやったことはなくても、誰もが営業そのものについては日常生活で体験しています。ゆえに、営業と聞いただけで、「人に何かモノを売らないといけない」、「買ってくださいと頭を下げないといけない」という考えが自然と浮かんできます。
もう1つは、何をどうやったらいいかわからないという不安感です。
どの業種の営業マンであっても、大半が学校を卒業して最初の会社に入社してから営業経験を積んでいきます。何も新卒入社の時点で営業経験があった訳でもなければ、営業に配属されて即座に成果をあげる訳でもありません。
にもかかわらず、いきなり専門職であるエンジニアに、本職の営業マンの動きをやらせようとしたり、あるいは数字の結果までもたせようとするために、冒頭のような発言が出てきてしまうのです。
一方で、普段から論理的な思考や、手順や組合せに親しんでいるエンジニアだからこそ、シンプルかつロジカルな話と仕組みを整えれば、意外なほど早く、営業力として立ち上げることがあります。
冒頭の発言が出てきた会社もそうでした。
視点を変えれば、開発・設計の話を進める段においてさえ、平均的な営業マンが通り一遍にお客様からヒアリングするよりも、相当深いところまで踏み込んだ情報収集が必要となります。実際、すでに営業の呼び水となるようなタネはつかめているのです。
どんな流れで仕事が進むのか?
その時期あるいは所要時間は?
どれくらい処理量があるか?
今後の拡張や発展の想定は?
現状システムを組むための課題は?
システム要件を定義する段のみでも、今後の営業展開につながる可能性のある情報が、幾つも出てきます。しかし、エンジニアの思考の中では、それらの情報はあくまで、依頼された目の前の設計・開発のための情報でしかありませんし、また仮に、その場で営業につなげようとすると、本来の業務に支障がでてきます。
とはいえ、話の流れ次第では、更にこんな情報も出てくるものです。
「これ必要だけど、来期この計画あったかなぁ~」
「関連会社でも、同じことで困ってるらしいよ」
「もう少し、ここがこうなってくれるといいのに…」
設計・開発を行う際に、上記のような話は、ムリに探りを入れずとも、本業の範疇なのです。エンジニアとして、良い設計・開発を行おうとすれば、不可欠な情報に関連するからです。
エンジニアを営業力と活用する際、決して、営業マンの真似事をやらせる必要はありません。いままで以上にエンドユーザーに喜ばれる設計や、エンジニア自らが上出来と思える開発を行うために求められる相手先の情報やシステム上の課題を、より深く意識して収集するように努め、それを社内で共有するだけで充分なのです。
現場で得たそれらの貴重な情報(中にはノイズや無駄情報も含む)を、しっかり分析できるかどうか、また営業数字につなげられるかどうかは、経営幹部や営業部門が行うべき仕事となります。そこまで、エンジニアに分担させようとしたり、取捨選択させようとするので、反発が起きるし、仮に実施しても長続きしないのです。
ITソフトウェア業で、技術力に自信がある会社であればあるほど、実は既に、エンジニアが現場で実践している仕事の中に、いままで見過ごしていた貴重な営業情報が潜んでいるものなのです。
今回のポイント(〆の一言):
ITソフトウェア業の営業強化は、適材適所の本質に通ずるものがある。エンジニアが本来の業務に精通すれば精通するほど、次の展開につながる営業ネタが現場に生まれる。